「申し訳ないが、君と結婚はできない」
「え?」
 私は驚き、思わず立ち上がってしまった。
「ラフィーニ、君の家からは10代ほど前に堕天使を出してしまっているだろう?大天使の息子である僕は、堕天使の子孫である君と結婚などできないのだよ」
 そうクリスは言った。
 顔に張り付いた微笑みからでもわかる、冷笑、見下しの気配。
 愛なんかない結婚だとはわかっていたけど、まさか結婚破棄されるとは。
(10代前に堕天使を出した家系だからって婚約破棄するのはありえない!絶対に何か理由《わけ》があるに決まってる!)
 それを口に出すのをぐっとこらえ、あくまで冷静に対応する。
「わかりました。クリス様がそうおっしゃるのなら、私も従うほかありませんわ」
「物わかりがいいことで嬉しいよ。では、この用紙にサインをしてから帰ってくれ」
 その物言いにカチンときたが、顔に出さないように努力しつつサインをした。
「今までどうもありがとうございました」
 去り際、そういやみたっぷりの言葉を投げつけた。
「あらラフィーニ様!どうしてそんな不機嫌そうなお顔でクリス様のお部屋から出ていらっしゃるの?」
 クリスの部屋から出てきた私にそう声をかけてきた天使がいた。
 整った顔立ちだが、どことなく浅い顔の彫りで、やたらとゴテゴテした服なども相まって俗っぽい印象だった。
「あなたは?」
「私の名前はサマエ。クリス様のお世話になっているものですわ」
「へぇ…」
 なんとなく状況が飲み込めた。
 このサマエとかいう天使と結婚するためにクリスは私との婚約を破棄したということか。
 にしても私よりこんなやつの方に惚れたなんて少しショックだ。
「私はこれからクリス様とお話をしてきますわ!それではラフィーニ様、お幸せに!」
 …すごくムカつくやつだ。
 だけど今の私にはどうすることもできない。
 兄ならなんとかできるかもしれないが、兄に頼むのも申し訳ないし。
 そう考えながら自分の家に戻ると、そこには兄のラエルがいた。
「お兄様!どうしてここにいらしてくれたの?」
「ああ、お前にいい知らせが入ったぞ。
お前はさきほど、女神となった」
「…へ?」