騒音がきらい。
 ひとがきらい。
 同情されることがきらい。
 そうやってひとりを好んできた私は、あるとき彼に出会った。
 そして、はじめて赤という色を見た。
 ハッとした顔。
 こくりと、ゆっくりと動く喉仏。
 困惑気味に揺れるまつ毛。
 どきどきと高鳴る鼓動に呼応するように色づいていく顔。
 ずっとあいまいだったその色は、彼が教えてくれた。赤は、恋の色だった。
 彼とは対照的に、彼女は明るく騒がしかった。
 私を見ればすかさず触ろうとしてくるし、抱っこしようともしてくる。私を抱っこしていいのは、彼だけなんだけど。
 彼女は私の、もろ苦手なタイプだ。
 ――でも。
 私は私を抱く彼を見上げる。
 彼のこんな幸せそうな顔が見られるのなら、うるさいのも悪くないかもしれない。
 背中にぶつかる騒がしい彼の心音を聴きながら、私は頭上をふり仰いだ。
 空はやっぱり、夏の色をしていた。