「清夏がそれでいいならいいんだよ。ただ、私は、まずは頑張らなきゃ自分で手に入れられないと思うから。留学も、頑張って勉強しなきゃコミュニケーションもとれずに意味がなくなっちゃうし。恋愛だって、近づこうとしないとその子からの信頼も関係も得られない」

大空は川の流れをじっと見て話し、俺は未だに本を開いたままその横顔を眺めながら聞いていた。

穏やかな時間のようでいて、少し息がし辛い。

「"なにかためしてみようってときには、どうしたって危険がともなうんだ"」

大空はムーミンの物語の中で好きな二つの言葉を声に出した。

「これに言い換えれば、留学だって好きな人といることだって、危険とは違うけど何か代償が必要なんだよね。留学をしたいのなら好きなことの時間は減る。好きな子といたいのなら高二での留学は諦めて夢への道を遠回りしなきゃいけない」

大空は頬杖をついてこちらを向く。

「だから、清夏に最後に必要なのは代償を考慮した上で明確な二つのどちらを選ぶ決断力。でも、焦らなくていいと思うよ。清夏はヘタレだけど、やる時はやるって知ってる。だって、清夏は夢のための勉強を継続するっていう難しいことを頑張ってきてるんだし。私は清夏ならどっちの選択肢を選んだ後でも叶うまで自力で、良い道を開いていく努力を惜しまないと思うから。私が清夏ならできるって保証できるわけじゃない。だけど、私は清夏が頑張るって決めたなら夢が叶うまでずっと応援してるよ」

先程まで怒っていたのが嘘みたいに優しい声音で大空は言った。

それも俺の好きな、笑顔を浮かべて。

「……さっきまで反対してたのに?」
「今じっくり考えた結果が清夏を応援することになったの。ちょっと頭にきてたのは否めないけど……」

結局怒ってたのかと思わず吹き出してしまい、大空に軽く一発殴られた。

「じゃあ、そろそろ暑さに耐えられなくなってきたし、帰ろう。あ、残りの本は今度取りに来て」

そう立ち上がる大空の後を、急いで本や水の入ったペットボトルを鞄に入れて追う。