朔凪は「よく学んだ」と俺の頭をぼさぼさになるまで撫でた。

「それじゃあ、私ももうそろそろ仕事に戻らなきゃ。店主なのに職務放棄になっちゃう」
「ゆくゆくは職務怠慢に」

余計な一言を発したせいで大空も俺よりは軽いが頬を抓られる。

「大空も言わなくてもいいことは自分の中で留める自制心を持ちなさい」
「ひゃい」

俺は自制心は持っている方だ。

だって、大空の不意打ちの可愛さに悶える自分を欠片も見せていないから。
見せるべきではないところでちゃんと耐えられている。
多分、誇れることでないが。

「……清夏、連絡先交換しよう」
「え?交換してなかったっけ」
「してない。仕事中はスマホ触れないから清夏の方から電話番号で申請かけといて」

人の見ていないところでサボられては困るから、職務中は一番のサボり要因を禁止しているらしい。
何より、食べ物を扱う場所なので雑菌がたくさんついたスマホは休憩室でしか使ってはいけないことになっている。

朔凪は机にあったペーパーナプキンに持っていたボールペンで自分の電話番号を迷いなく書き、渡してきた。
それを受け取って会計を済ませる。

「また来てね」
「うん。お母さん達、朔凪の会いたがってるからこっちにいるなら顔出して」
「了解。清夏も……清夏は今はいいかな」
「何がだよ」

そこでやめられると気になって仕方がない。

問い詰めると「連絡した時に教えてあげる」とはぐらかされた。