「清夏は?」

待っていた問いを投げかけられたというのに未だに理想の未来は遠いのだという絶望感に支配され、返答はとても暗いものになった。

「いるの!?」

俺の口調には気にも留めずに驚く大空に、そこまで驚くことでもないだろと無意識に思う。

「いる」
「同じ学校?」
「そうだよ」
「同じ学年!?」
「うん」
「え、国際科?」
「違う学科」

全て聞いている本人のことなのに大空は一瞬、嬉しそうとも悲しそうとも読み取れるような複雑な表情をした。

「何その顔」
「あ……いやぁ。清夏にそんな相手がいたなんて、と思って。清夏こそ誰が好きだとか噂を聞いたことがないからね。よかったよかった」

その言葉は俺の立っていた地面を壊し、降下させていった。

まるで家族や友人がかけるような安堵の言葉。
大空にとって俺は恋愛対象として見られていない。
俺の好きな人、それが自分であるとは夢にも思わないんだろう。

「俺、先に帰る」
「え?」

大空が呼ぶ声を無視して自転車に跨り、思いっきりこいだ。

本来の目的は果たせたのに、聞く前よりもずっとつらい。

あそこで俺の好きな人は大空だと言ってしまえたら。
この恋をきっぱり諦められたら。

留学だって、その先の進路だって夢に向かって真っすぐ進めるかもしれない。

この辛さはきっと大空を好きだと思わなければ消えるだろう。

でも、そのための手段がいくらあっても俺にはどれも実行できない。

大空を好きでいることをやめるなんて、したくない。