「マジです」

「……本当にほんと?無理やり言わせてるみたいじゃない?」

さっきの余裕そうな彼女はどこに行ったんだ。

「まぁ、正確にはそうですけど」

「ちょっ、」

「冗談ですよ。信じてくれるまで伝えますから」

夏の暑さがそうさせた。

頭がボーッとして。

いや、俺はもうずっと、彼女の前だとそうなんだ。

心臓がギュッと締め付けられて、身体が火照って。

彼女の、匂いが、仕草が、笑顔が、そうさせる。

「瑞季さん、」

そう優しく彼女の名前を呼んで。

大切に、大事に、丁寧に。

「……んっ、」

彼女の唇に自分のそれを重ねた。

いつか、ヤツのしたことをバカにしていたのに。

自分がこんなことをすることになるなんて。


「……若葉くん、ここ仕事場だよ?こんなとこでするなんて、いつからそんな悪い子になったの」

「……瑞季がそうさせるんだよ」

「わっ、生意気」

そういう彼女があからさまに戸惑ってて可愛くて。

愛おしすぎておかしくなりそう。

もっと、欲しいよ、ちょうだいよ。

「これで共犯だね」

精一杯の背伸び。

いつか彼女に言われたセリフを同じように呟いて。

もう一度、大好きな彼女の唇を奪った。




───end───