「左様かもしれませんね。ですが、そもそもがお門違い……うーん……方向性。そう、方向性が間違っておりませんか?」
冷静になれば、言い方が悪かったのだろうと気づいて言い直します。
「……何故そう思う。どのような意味で申しておる?」
やはり根本的に話が食い違っていたようですね。
「建国当初、本来の後宮には四夫人を据え、大きな宮を四つ、四嬪を据えて半分規模の宮を四つ造っておられます。初代皇帝は何故に計八つの宮を? そのようにお考えになった事はおありで?」
「宮の数? 考えた事などないが……」
陛下は怪訝なお顔をなさいます。
その様子に、嘘はないと感じ、思わず首を捻ってしまいました。
はて? お子を授かりたいのは本心ですよね? 初代とその次か、更にその次くらいまでの皇帝は、子孫繁栄の為に後宮を真の意味で使用していたかと思うのですが?
以降の代の皇帝ならともかく、先祖返りよろしく。内包する魔力が一際強い今代の皇帝こそ正しく宮を使用せねば、自身のお子など得られない。そうとわかって、この宮を復活させたのではないのでしょうか?
「この宮が何故廃されたかご存知で?」
そう。この宮を廃するならば、いつかの未来で此度のような事が起こる事など、予測できた事。
「下女がここで死んだからだ。そなたが今寝床にしている、あの小屋でな」
「……下女? それを示す正式な書類はございまして? 直接確認されましたか? 死因は? 皇貴妃もそのようにお考えで?」
あの小屋の先人様は、そのような事を仰ってはおりませんでしたが……。
「いや、その話は有名で……そなた何を知っておる?」
陛下の瞳には私への疑心の色が現れます。本当に度々失礼な法律上の夫ですね。
この国、大丈夫なのでしょうか……。後宮の事全般がポンコツ、それ以外はできる皇帝と噂にはございましたが……。
しかしこれは……なかなかの大事です。
皇帝陛下の子孫にまつわる謀りともなれば、国家転覆を目論んだ可能性すら考えられるもの。まともに気づく者もいなかったようですが、陛下と先人様との話の違いから偶然と考えるのは早計。
とはいえ私は生家の爵位が低い、新参貴妃。積極的に関わるには荷が重い……。
まあどちらにしても、今はその時ではありませんね。それに私は自分の命を大事にする主義です。
「ならばここでこうしては……そもそも何故そうとテキパキと、皇帝陛下が鳥の羽根をむしっておられるのですか」
実は話しながらも陛下は鍋を火から外し、吊るした鳥を湯につけ、羽根をむしっては火に焚べておりました。恐らく魔力を使って、それとなく血抜きの時間を早めていたのでしょうが、陛下こそ替え玉ですか?! 正体は料理人ですね?!
「そなたが! 手伝えと言うたのであろうが!」
ムムッ。いたいけな少女にこの程度で怒るとは、気の短い。もう羽根も全てむしっていただきましたし、私は元々、陛下に用などないのです。
何より、このお肉は私の獲物。お腹空いてますよ、私。つれない怒りん坊な、法律上だけの夫に差し上げるのは勿体ない。
「お帰りを。善は急げと申します。お肉は私が美味しくいただきますから、ご安心下さいな。絶対、差し上げません。陛下は皇貴妃と共に、やるべき事をなさいませ。ほらほらほらほら」
陛下の背後に回り、ぐいぐいと背中を押してここから遠ざけます。皇貴妃がどう陛下にお話しなさったかなど、既に興味はございません。そもそも今聞く必要もないですし。
何より二日ぶりのお肉! 絶対死守! 何ならそれで明日の分も賄うのですから!
「おい、待て! 押すでない! 肉を所望もして……だから待て! 皇帝を押して追い出す貴妃など、聞いた事がないぞ! 不敬だぞ、お、おい、聞かぬか!」
「初夜に妻の首を剣で切るような不敬な夫に、説得力はございません! さあさあさあさあ! お帰り下さいませ!」
「くっ! 反論できぬ事を言うでない! 力強くないか?!」
「女子にそのように仰るとは、恥をお知りなさい!」
そうして小屋が見える辺りまで、ぐいぐい追いやります。
「それでは、お見送りはここまでです。次にいらっしゃる時には、宿題の答えをお持ち下さいな」
「いつから宿題になったのだ! って、おい! 聞けー!」
無視無視、お腹空きました。育ち盛りなんですよ、私。育ちきって老いゆくだけの陛下と違って、成長期なのですからね。
さあさ、早く捌いて美味しく鳥をいただきましょう。
「………………」
意気揚々と戻ってみれば……うっかり無言に。
一対の人ならざる者と目が……合ってしまいました。
冷静になれば、言い方が悪かったのだろうと気づいて言い直します。
「……何故そう思う。どのような意味で申しておる?」
やはり根本的に話が食い違っていたようですね。
「建国当初、本来の後宮には四夫人を据え、大きな宮を四つ、四嬪を据えて半分規模の宮を四つ造っておられます。初代皇帝は何故に計八つの宮を? そのようにお考えになった事はおありで?」
「宮の数? 考えた事などないが……」
陛下は怪訝なお顔をなさいます。
その様子に、嘘はないと感じ、思わず首を捻ってしまいました。
はて? お子を授かりたいのは本心ですよね? 初代とその次か、更にその次くらいまでの皇帝は、子孫繁栄の為に後宮を真の意味で使用していたかと思うのですが?
以降の代の皇帝ならともかく、先祖返りよろしく。内包する魔力が一際強い今代の皇帝こそ正しく宮を使用せねば、自身のお子など得られない。そうとわかって、この宮を復活させたのではないのでしょうか?
「この宮が何故廃されたかご存知で?」
そう。この宮を廃するならば、いつかの未来で此度のような事が起こる事など、予測できた事。
「下女がここで死んだからだ。そなたが今寝床にしている、あの小屋でな」
「……下女? それを示す正式な書類はございまして? 直接確認されましたか? 死因は? 皇貴妃もそのようにお考えで?」
あの小屋の先人様は、そのような事を仰ってはおりませんでしたが……。
「いや、その話は有名で……そなた何を知っておる?」
陛下の瞳には私への疑心の色が現れます。本当に度々失礼な法律上の夫ですね。
この国、大丈夫なのでしょうか……。後宮の事全般がポンコツ、それ以外はできる皇帝と噂にはございましたが……。
しかしこれは……なかなかの大事です。
皇帝陛下の子孫にまつわる謀りともなれば、国家転覆を目論んだ可能性すら考えられるもの。まともに気づく者もいなかったようですが、陛下と先人様との話の違いから偶然と考えるのは早計。
とはいえ私は生家の爵位が低い、新参貴妃。積極的に関わるには荷が重い……。
まあどちらにしても、今はその時ではありませんね。それに私は自分の命を大事にする主義です。
「ならばここでこうしては……そもそも何故そうとテキパキと、皇帝陛下が鳥の羽根をむしっておられるのですか」
実は話しながらも陛下は鍋を火から外し、吊るした鳥を湯につけ、羽根をむしっては火に焚べておりました。恐らく魔力を使って、それとなく血抜きの時間を早めていたのでしょうが、陛下こそ替え玉ですか?! 正体は料理人ですね?!
「そなたが! 手伝えと言うたのであろうが!」
ムムッ。いたいけな少女にこの程度で怒るとは、気の短い。もう羽根も全てむしっていただきましたし、私は元々、陛下に用などないのです。
何より、このお肉は私の獲物。お腹空いてますよ、私。つれない怒りん坊な、法律上だけの夫に差し上げるのは勿体ない。
「お帰りを。善は急げと申します。お肉は私が美味しくいただきますから、ご安心下さいな。絶対、差し上げません。陛下は皇貴妃と共に、やるべき事をなさいませ。ほらほらほらほら」
陛下の背後に回り、ぐいぐいと背中を押してここから遠ざけます。皇貴妃がどう陛下にお話しなさったかなど、既に興味はございません。そもそも今聞く必要もないですし。
何より二日ぶりのお肉! 絶対死守! 何ならそれで明日の分も賄うのですから!
「おい、待て! 押すでない! 肉を所望もして……だから待て! 皇帝を押して追い出す貴妃など、聞いた事がないぞ! 不敬だぞ、お、おい、聞かぬか!」
「初夜に妻の首を剣で切るような不敬な夫に、説得力はございません! さあさあさあさあ! お帰り下さいませ!」
「くっ! 反論できぬ事を言うでない! 力強くないか?!」
「女子にそのように仰るとは、恥をお知りなさい!」
そうして小屋が見える辺りまで、ぐいぐい追いやります。
「それでは、お見送りはここまでです。次にいらっしゃる時には、宿題の答えをお持ち下さいな」
「いつから宿題になったのだ! って、おい! 聞けー!」
無視無視、お腹空きました。育ち盛りなんですよ、私。育ちきって老いゆくだけの陛下と違って、成長期なのですからね。
さあさ、早く捌いて美味しく鳥をいただきましょう。
「………………」
意気揚々と戻ってみれば……うっかり無言に。
一対の人ならざる者と目が……合ってしまいました。