「代わりにですが、理由はともかく、現状手土産もお持ちできない身の上です。他の宮の貴妃にも皇貴妃よりご了承下さいと皇貴妃としてお伝え頂けますかしら?」
「……ええ」
あら、せっかくの微笑みが消えましたね。もちろんこの事に否とするなら、皇貴妃としての責任能力が無いと自ら宣言するのと同義。
ですが臣下の監督不行き届きどころか、目の前の不敬を諌めなかったご自身の責任ですよ。
それにしても、今度こそ陛下から覇気を明確にぶつけられましたね? そんなだから詰めの甘い皇貴妃が出来上がったのだと思わないのでしょうか?
丞相は私の言葉になにやら感心したようなお顔。
からの、周りの様子に気づいたようです。やれやれと首を左右に振りました。
「介抱できる者も場所もございません。ご自分のお連れになった者達は、ご自分でお引き取り下さいね。他に無ければこれで。見ての通り、賠償も頂いてからでなければ何もおもてなしできませんし?」
そう、陛下のダダ漏れる覇気に当てられて倒れる女官が数名。ここ、紛うことなき土くれの地面です。衣が汚れてしまいますよ?
陛下のお付きの方々はお流石、と言うべきでしょう。些か顔色は悪いですが、しっかりお立ちでらっしゃいます。
「他にはない。重ねて伝えるが、連れこんだ者達が何かしら粗相をすれば、お前の責任となる。夢々忘れるな」
「もちろんに。では私が外から呼び入れる者達への命令権、及びそれに準ずる全てが私の権利とし、他の何者にも従う必要なしと致します。よろしいですね? という事は、この後宮全体とそれ以外の場で、貴妃が関わる事全てを確実に私の耳に入れねばなりません。でなければ何かあっても、私の責任とはできませんが、それでよろしいでしょうか?」
「そなたは!」
「認めてやるから勝手にせよ! 本日よりお前は正式にこの宮の主となった。好きな時に出ていけ!」
「まあ! なんと素敵なお言葉!」
流石の皇貴妃もお顔の色が優れぬままに、何やら言いかけたのを陛下が遮ってしまいました。よろしいのでしょうか?
けれどそんな事よりも、ついつい嬉しさがこみ上げてまいります。両手をパン、と叩いて顔にも態度にもしっかり出して喜んでしまいました。
「……何でそんなに嬉しそうなのだ。……そうやって笑ってると、ガキ過ぎて怒りが削がれる」
あらあら、覇気が一瞬で霧散しましたね。最愛の皇貴妃にとっても、それがよろしいでしょう。
「おすまし顔の方が陛下のお好みでしたか? ですが陛下と出会ってからの約半日。その中で賜ったお言葉では、一番に嬉しいものでございましたので、つい」
「「なんと……」」
「ぶはっ」
顔を顰めるご夫婦はともかく、丞相はどうして吹きだしたのでしょう? この方、氷の麗人と呼ばれておられたはずですが、もしやそこそこの笑い上戸?
「お気の変わらぬ内にお帰り後、すぐに一筆お書き下さいませ。ああ、ここに紙と筆が無いのが悔やまれますね。そうそう、出て行く際には国家予算一年分の持参金を引き上げます。どうぞ、いつでも私が出ていけるようご準備しておいて下さいまし。ねえ、丞相?」
「国家予算?」
「チッ」
「ぶふぉっ」
目を丸くする皇貴妃。やはり初耳のご様子です。
舌打ちする陛下のお気持ちはわかりますが、丞相はまたも吹き出してしまいました。
お付きの方々も何やらザワザワと……。
ですが気にしてはいられません! やる事ができましたもの。
「それでは陛下方、ご機嫌よう」
正式な礼を取り、にこりと微笑む。
「やっぱりできるではないか! しかも洗練されていて、無駄がない」
「はあ、貴妃。できるなら初めからなさいませ」
何かしらご夫婦揃って仰っていますが、そんなのは些末な……。
「くっくっ。後で破落戸や不届きな女官達から差し押さえた金品に関わる証文をお持ちしますよ、貴妃」
丞相の言葉にはた、と動きを止めます。
「証文はお早めにお願い致しますね、丞相」
そう、証文だけはきちんとせねばなりません! まずは俸禄何名分かが懐に転がってくる事に、想いを馳せましょう!
「んっふふ〜。おっ金、お金〜、おっ金っ様〜」
さあさ、やらねばならぬ喜びの舞を天に向かって奉納です!
「待て! 下世話な言葉を吐きながら無駄に上手い舞を舞うでない! せめて全員いなくなってからにせぬか! 腹が立つ守銭奴娘が!」
「…………綺麗な舞ですこと」
「ほう、なかなか」
舞を褒めて下さるお二人と違って、私の夫はなかなか悪辣ですね。
「お気になさらず〜」
ですが既に礼をもって、ご挨拶を終えましたもの。外野は無視です、無視。お三方の後ろで刺すように視線を投げる者達も、同じく無視。
微笑んで天へと手を上げては引き寄せる動作を入れておきましょう。金運は自ら招き入れねばなりません。
「来い来い、金運〜」
タタン、タタン、タタン、と跳ねつつクルリと回転。からの決め姿勢!
「ふむ、決まりました。むふふふ、楽しみですね、お金様。あら、まだいらっしゃいましたか。それでは皆様、ご機嫌よう」
そのまま先人のいらっしゃる小屋へ戻ります。
クッ、相変わらず戸は閉まりませんでしたね。
「……ええ」
あら、せっかくの微笑みが消えましたね。もちろんこの事に否とするなら、皇貴妃としての責任能力が無いと自ら宣言するのと同義。
ですが臣下の監督不行き届きどころか、目の前の不敬を諌めなかったご自身の責任ですよ。
それにしても、今度こそ陛下から覇気を明確にぶつけられましたね? そんなだから詰めの甘い皇貴妃が出来上がったのだと思わないのでしょうか?
丞相は私の言葉になにやら感心したようなお顔。
からの、周りの様子に気づいたようです。やれやれと首を左右に振りました。
「介抱できる者も場所もございません。ご自分のお連れになった者達は、ご自分でお引き取り下さいね。他に無ければこれで。見ての通り、賠償も頂いてからでなければ何もおもてなしできませんし?」
そう、陛下のダダ漏れる覇気に当てられて倒れる女官が数名。ここ、紛うことなき土くれの地面です。衣が汚れてしまいますよ?
陛下のお付きの方々はお流石、と言うべきでしょう。些か顔色は悪いですが、しっかりお立ちでらっしゃいます。
「他にはない。重ねて伝えるが、連れこんだ者達が何かしら粗相をすれば、お前の責任となる。夢々忘れるな」
「もちろんに。では私が外から呼び入れる者達への命令権、及びそれに準ずる全てが私の権利とし、他の何者にも従う必要なしと致します。よろしいですね? という事は、この後宮全体とそれ以外の場で、貴妃が関わる事全てを確実に私の耳に入れねばなりません。でなければ何かあっても、私の責任とはできませんが、それでよろしいでしょうか?」
「そなたは!」
「認めてやるから勝手にせよ! 本日よりお前は正式にこの宮の主となった。好きな時に出ていけ!」
「まあ! なんと素敵なお言葉!」
流石の皇貴妃もお顔の色が優れぬままに、何やら言いかけたのを陛下が遮ってしまいました。よろしいのでしょうか?
けれどそんな事よりも、ついつい嬉しさがこみ上げてまいります。両手をパン、と叩いて顔にも態度にもしっかり出して喜んでしまいました。
「……何でそんなに嬉しそうなのだ。……そうやって笑ってると、ガキ過ぎて怒りが削がれる」
あらあら、覇気が一瞬で霧散しましたね。最愛の皇貴妃にとっても、それがよろしいでしょう。
「おすまし顔の方が陛下のお好みでしたか? ですが陛下と出会ってからの約半日。その中で賜ったお言葉では、一番に嬉しいものでございましたので、つい」
「「なんと……」」
「ぶはっ」
顔を顰めるご夫婦はともかく、丞相はどうして吹きだしたのでしょう? この方、氷の麗人と呼ばれておられたはずですが、もしやそこそこの笑い上戸?
「お気の変わらぬ内にお帰り後、すぐに一筆お書き下さいませ。ああ、ここに紙と筆が無いのが悔やまれますね。そうそう、出て行く際には国家予算一年分の持参金を引き上げます。どうぞ、いつでも私が出ていけるようご準備しておいて下さいまし。ねえ、丞相?」
「国家予算?」
「チッ」
「ぶふぉっ」
目を丸くする皇貴妃。やはり初耳のご様子です。
舌打ちする陛下のお気持ちはわかりますが、丞相はまたも吹き出してしまいました。
お付きの方々も何やらザワザワと……。
ですが気にしてはいられません! やる事ができましたもの。
「それでは陛下方、ご機嫌よう」
正式な礼を取り、にこりと微笑む。
「やっぱりできるではないか! しかも洗練されていて、無駄がない」
「はあ、貴妃。できるなら初めからなさいませ」
何かしらご夫婦揃って仰っていますが、そんなのは些末な……。
「くっくっ。後で破落戸や不届きな女官達から差し押さえた金品に関わる証文をお持ちしますよ、貴妃」
丞相の言葉にはた、と動きを止めます。
「証文はお早めにお願い致しますね、丞相」
そう、証文だけはきちんとせねばなりません! まずは俸禄何名分かが懐に転がってくる事に、想いを馳せましょう!
「んっふふ〜。おっ金、お金〜、おっ金っ様〜」
さあさ、やらねばならぬ喜びの舞を天に向かって奉納です!
「待て! 下世話な言葉を吐きながら無駄に上手い舞を舞うでない! せめて全員いなくなってからにせぬか! 腹が立つ守銭奴娘が!」
「…………綺麗な舞ですこと」
「ほう、なかなか」
舞を褒めて下さるお二人と違って、私の夫はなかなか悪辣ですね。
「お気になさらず〜」
ですが既に礼をもって、ご挨拶を終えましたもの。外野は無視です、無視。お三方の後ろで刺すように視線を投げる者達も、同じく無視。
微笑んで天へと手を上げては引き寄せる動作を入れておきましょう。金運は自ら招き入れねばなりません。
「来い来い、金運〜」
タタン、タタン、タタン、と跳ねつつクルリと回転。からの決め姿勢!
「ふむ、決まりました。むふふふ、楽しみですね、お金様。あら、まだいらっしゃいましたか。それでは皆様、ご機嫌よう」
そのまま先人のいらっしゃる小屋へ戻ります。
クッ、相変わらず戸は閉まりませんでしたね。