香に、立川先輩と別れたことを報告したのは、一週間後だった。


「えー。そうなの。もったいない。立川先輩と付き合いたくても付き合えない女子は、たくさんいるんだよー。わたしだって、和樹と付き合ってなかったら、付き合いたいぐらいだよ」


 香はそう言った。


「いいの。後悔はしてないから」


「美咲が、そう言うならいいけどさ」


 香はえくぼを作って言った。


「美咲、今から、遊びに行かない?」


「今日はいい」


「そっかー。じゃあ、また今度ね」


 久し振りに一人で街に出た。今日も、街は喧騒で溢れている。

 立川先輩の唇の奥には何もなかった。わたしが求めているものは。貴史にはあるのだろうか。貴史はわたしに何を求めているのだろうか。

 兄妹の絆? 異性としての温もり? それとも――。

 わたしは、どうだろう。貴史に何を求めているのだろう。求め合うことは間違いではないはずだ。

 あのとき以来、家で顔を合わせても、会話を交わすことはなくなった。

 貴史の目からは、光が消えたようだった。貴史の唇の奥には、あったのだろうか。わたしが求めているものは。