次の日。ある程度は予想していたけれど、同じクラスの女子から質問責めにあった。

 わたしが多田野君と話しているところを見られていたのだろう。

 なかには質問というより、悪意を感じるような物言いもあったけれど。

 わたしの席の周りにこんなに人が集まったのは学生生活で初めてのことだ。

 事態を知らないであろう男子は、何事だと言わんばかりの視線をチラチラと向けてくる。

 人だかりが散り散りになったのは、ホームルーム直前だった。

 ようやく、いつも通りの日常が戻ってきたと思い、わたしは深呼吸をした。

 深呼吸をして周りを見渡すと、さきほどまで質問責めをしていた女子たちは、自分たちの話題に興じていた。

 昨日、多田野君と下校したとき、会話はいっさいなかった。わたしにとってはそれでよかったのだけれど。

 異性と二人で下校した経験なんて思い返す必要もない。わたしには一度もないからだ。

 わたしは彼から二メートルほどだろうか。距離を取り、なるべく彼を視界に入れないようにしておぼろげに歩いていた。

 ときおり、彼が首だけ回し、わたしの存在を確認しているようだったけれど、そのたびに、わたしは肩に力が入ってしまった。

 いつまでこんな日が続くのだろう、と思い、昨日は夜中に何度も目が覚めた。

 いっそのこと、沙希ちゃんに断りの連絡を入れようと思った。だけど、彼女は自分が言い出したことは、ことが解決するまで曲げない性格なのだ。

 もちろん、今日も彼と下校することになる。

 ホームルームで、担任の先生がまだ窃盗事件の犯人が捕まっていないことを気怠そうに話していた。

 早く事件が解決しないかな、と思いながら教室の窓越しに空を見ると、遠くの空に黒い雲が幅を利かせていた。

 そう言えば、傘を持って行くように母に言われたことをすっかり忘れていた。

 わたしは大きなため息をつき、授業の準備を始めた。