「下条誠さん、で合ってますか?」
「合ってます。茜さんの苗字はなんていうんですか?」
「伊藤です。覚えやすいでしょ? 下条さんはおいくつですか?」
「誠でいいですよ。今年で二十六歳になります。茜さんは?」
「偶然。同じです。そんな気はしてたけど。あっ、荷物ください。自分で持てるので」

 誠さんは荷物を手渡してくれた。哲弥のように、自分が持つと言って変に意地を張られるより、ずっと気持ちが良い。

「偶然、お互いに別れ話でしたしね」
「えぇ、でもおかげで寂しくないですよ。味方がいてくれてよかったです」
「僕もです。一人じゃなくて良かった」

 並んで歩いていると、初めてとは思えないほど、距離感がしっくりときた。

「元カノさんとはどれくらい付き合ったんですか?」
「お恥ずかしい話、三ヶ月ほどです。茜さんはながそうですよね」
「長くても、いつの間にか気持ちがすれ違うのなら、短くても同じです。むしろ短い方が、スパッと別れられそう。長いと情が生まれちゃいますからね」
「あはは。同感です。あのっ、せっかくのご縁ですし、もし良ければこれからどこかで飲み直しませんか?」

 私もそう思っていた。こんなに自然体で話ができる人は、なかなか出会えない。

「えぇ、是非」

 それから私たちは公園を抜け、飲み屋が多く軒を連ねる駅に向かって歩き始めた。