「うわぁ、まーくんの元カノって怖いんだねぇ。ちょっとびっくりしちゃった」

 衝動に駆られ、つい隣の男性の腕にしがみつくと、目の前の女性をじっと見つめる。

「あ、あの……?」

 男性は現在の状況が飲み込めないようで、目を瞬きながら、困惑した表情で私を見ていた。しかしそれは女性も同じで、キッと睨まれる。

「誰よ」
「あっ、まーくんの新しい彼女の茜っていいます。まーくん真面目だから、元カノとのことをはっきりさせたいって言っていて……じゃないと私と向き合えないって言ってくれたんです。本当に彼女想いで優しいんだから!」

 明らかに動揺している様子の彼の膝を叩き、私の会話に合わせるように合図する。

「本当にまーくんの言った通りだったね。でもこれで私とちゃんと付き合えるでしょ?」
「うっ……うん……?」

 ちゃんとセリフを言わない彼の膝を、今度は平手で叩いた。

「そ、そうだね。その……今までありがとう」
「ふんっ、茶番もいいところだわ。まぁお似合いなんじゃない? 誠もほどほどにしないとまた逃げられるわよ。あなたもせいぜい頑張って」

 それから女性は荷物を持って立ち上がると、一度も振り返ることなく、店を去っていった。女性の姿が見えなくなったのを確認し、私はしがみついていた腕を離した。そして黙って、テーブルの上のアイスティーを飲み干した。