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 それは昨日のこと。待ち合わせの時間の一時間前にカフェに到着し、ソファ席の背もたれに寄りかかりながら、ぼんやりと天井を眺めていた。

 隣の席には黒いセットアップを身につけた二十代前半くらいの男性が一人で座っている。俯いたままスマホをじっと見つめているだけで、微動だにしない。相当集中しているにちがいなかった。

 二杯目のアイスティーのグラスには水滴がつき、ひと雫落ちるたびに、周囲の水滴を巻き込みながらコースターの上に落ちていく。でも一粒でどん底に落ちるよりは幸せなのかな……そんなことを考えて、小さく息を吐いた。

 一週間前に比べたら、だいぶ気持ちは落ち着いてきた気がする。とはいえ、これから起こるであろう出来事を想像すれば、明るい気分には到底なれなかった。

 その時、隣の席の通路側の椅子が大きな音を立てて引かれた。思わず体がビクッと震え、チラッと隣へと目をやると、男性の正面の席に若い女性が不機嫌そうに腰を下ろしたところだった。

 女性はオフショルダーの白いブラウスに、ピンクのスカートを合わせていて、やけに可愛こぶっている姿から、あざとい感じが見て取れる。

 あぁ、私が嫌いなタイプだわーー自分に可愛げがないのはわかっている。だからこそ可愛い子ぶってる女子が気に触るのだ。

 女の子はため息をつくと男性を睨みつける。

「あのさぁ、もう無理だって何回も言ったよねぇ。しつこいメールとか電話、やめてほしいんだけど」
「……俺、見たんだ。君が別の男と一緒にマンションに入って行くところ。本当は新しい男が出来たんだろ?」
「……あぁ、知ってたんだー」
「それってやっぱり……」
「そうだよ。職場の先輩なの。しつこくないし、優しいし、束縛しないし、すごく大人な人。誠と大違い」
「別に俺は……ただ心配だっただけで……」
「心配って、の自己満じゃない。信用されてないんだなって思った」

 二人の会話、というよりは、一方的に女性が話しているように聞こえた。男性が落ち込んだように俯いたので、少し気の毒に見えてしまった。

 好きだったから心配だったんじゃないのかな。自分の好きという気持ちと、彼女の気持ちに距離感を覚えたから不安になったんじゃないのかな。女性が何かを口にするたびに、つい庇いたくなる自分がいた。

 彼女には彼の愛が面倒だったのかもしれないけど、でもあんなふうに彼を傷つけるような言い方をする必要があるかしら。元々嫌いなタイプだったこともあり、私の中で怒りが沸々と湧いてくる。

「次に付き合う人が出来たら、そういうところ、気をつけた方がいいよ。嫌われちゃうと思うから」

 その言葉を聞いた途端、私の中で何かがプツンと切れたような気がした。