慎が海外に行って5年。
普段私たちは空いた時間にメッセージを送ったり、たまに電話をしたりとこまめにやりとりをしている。
そんな中で慎はときどき、こうしていきなり帰国することがある。
いきなり来て食事をして、一泊したら次の日には戻って行く。
毎年年末年始にまとめて休みをとって帰国しているんだから、そんなせわしないスケジュールで来なくてもいいのに。
慎と話すうちに食事を終え、買ってきていた缶酎ハイも空になった。
本当はまだふたりで飲みたいところだけれど私は明日も仕事だ。
時間に追われるようにお風呂に入って寝る準備をすると、時刻はもう0時を過ぎてしまった。
「私、明日も朝から仕事だからもう寝るよ。慎は明日は?」
「明日の昼の便で帰る。向こう戻ったらすぐ仕事だからさ」
そっか、明日の昼にはもう……。
胸の奥に小さく込み上げる気持ちを見ないふりをして、ベッドに入ると、慎も続いて同じベッドに入った。
いつも窓際が慎の定位置だ。
それをわかっていながら、私は自然と彼に背中を向けてしまう。
「もっとちゃんと事前に予定立ててから来ればいいのに。
そしたら私だって休みくらい合わせられるのに」
「そうなんだけどねぇ、衝動には抗えない性と言いますか」
よくわからないことを言いながら、慎は私の背後で、ここ半年ほど伸ばしっぱなしの私の髪に指を絡めて遊ぶ。
「前に会ってから3ヶ月ぶりだね。紗雪、寂しかった?」
「全然。毎日忙しくて慎のこと考える暇もないよ」
「それはそれは……いいのか悪いのか」
おかしそうに笑っている声から、慎が肩を揺らし笑っているのがわかる。
「けど、仕事は楽しい?」
「うん、まぁ」
「そっか、ならよかった」
優しく穏やかな声から、まつ毛を伏せ笑っているのであろうこともわかる。
慎の声ひとつで表情や仕草が想像できてしまうくらい、慎のことはよく見てきたつもりだ。
ところが、「けど」と付け足すような声が少し落ち込んでいて耳に留まる。
「たまにちょっと考えちゃうんだよね。
そのうち紗雪の中で、俺が消えちゃうんじゃないかって」
ぽつりと呟くその言葉に、驚きから思わず慎のほうへ体ごと向けた。
そこにあるのは、左腕で頬杖をつき、少し困った表情で私を見る慎の顔。
「な、にそれ……慎でもそういうこと、考えるの?」
「たまにね。紗雪は浮気とかする人じゃないからそういう点での不安はないよ。
……けど、いつか俺が必要ないってことに気付いて捨てられるんじゃないかって思うときがある」
窓から入り込む月明かりが、背後から慎の輪郭を縁取るように照らしている。
その光が彼を儚く見せて、この胸を不安で揺らした。
「不安になって気になって、気付いたら飛行機のチケット買って空港に走ってる。なんて、女々しいよね」
はは、といつものように笑ってみせる。
けれど、その声がどこか心細そうに響いて私のほうが泣きたくなった。