「カスミ!」
「みんな!」
わあ、と歓声が上がり、カスミがもみくちゃにされる。久しぶりの再会に、状況も相まって、奏澄はうっすらと涙を浮かべていた。
条件を呑んだことで、オリヴィアはそのまま地下牢へと向かい、奏澄の仲間たちを解放した。アンリが現役だと言っていた通り、城の地下牢は罪人の一時拘留場所として使われていた。一度ここに入れられた後、裁判などを終えると、重罪人は監獄島へ、それ以外は別所にある刑務所へ送られる。
地下牢には、たんぽぽ海賊団の仲間たちが揃っていた。
赤の海域からは、マリーたちドロール商会のメンバー、ライアー。緑の海域からは、予想通りアントーニオとラコット一味が。そして、青の海域から、レオナルドも連れて来られていた。玄武は事情があって来られなかったか、あるいはレオナルドの工房は一人で営業しているため、大きな騒ぎとならず、耳に入らなかったのかもしれない。
「カスミ、一人か? メイズさんは?」
ライアーが真っ先にメイズの存在を気にかけた。一人でオリヴィアと行動していたことに、驚いているようだった。
「大丈夫、一緒に来てるよ。ハリソン先生も。ただ、今はちょっと別の場所で待機してるけど」
苦笑した奏澄に、ライアーが心配そうに眉を寄せた。きちんと説明したいが、この場でそれをする時間は無い。オリヴィアから、早くしろというプレッシャーを感じる。
そう。仲間たち全員を、このまま外へ連れ出すわけにはいかないのだ。だからメイズと合流せず、奏澄一人を案内したのだろう。
奏澄は仲間たちに向き直って、一人一人の顔を見た。
「ごめんなさい。みんなのこと、迎えにきたよって言いたかったんですけど……まだ、そういうわけにはいかないんです」
そう前置きして、奏澄は簡潔にオリヴィアとの取引内容を告げた。
「だから、誰か一人はここに残ってもらわないといけない。本当に申し訳ないけど……必ず、もう一度迎えにくるから……!」
頭を下げた奏澄に皆は顔を見合わせ、誰ともなく手を上げた。
「俺残ります」
「いや、オレ残りますよ、一番年下だし」
「俺残るって。頑丈だし」
「バカ、戦力は減らせねぇだろ。オレが」
自分が自分が、と言い出す仲間たちに、奏澄は少しの間呆けた後、場違いにも某コントを思い出して笑った。たった一人、敵陣に置き去りなんて。なんて酷い行いだろう、と思うのに。こんな風に、奏澄が気にしなくていいように振る舞ってくれる。その心づかいが、泣きたいほどに嬉しかった。
「俺が残る」
やいやい言い合う中、凛と声を発したのはレオナルドだった。
「お前はダメだろ」
「むしろ、俺が一番適任だろ。セントラルに残るのは、誰でもいいってわけじゃない」
首を傾げる仲間たちを無視して、レオナルドはオリヴィアに視線を向けた。
「セントラルにいる間、どう扱われるかわからない。カスミが戻っても、セントラルが約束を守る保証もない。その点俺なら、少なくとも殺される心配はない。なんせ、半分はぐれ者の血が流れてるからな」
不敵に笑うレオナルドに、オリヴィアは黙ったまま視線を鋭くした。
「利用価値があるのに、雑に扱ったりはしないよな?」
「そうね。人質は人道的に扱うわ。多少は研究に協力してもらうかもしれないけど」
「研究って……!」
奏澄はハリソンの言葉を思い出していた。セントラルでは、はぐれ者を人間扱いしていない、と。いくらなんでも、そんな環境に置いていくわけにはいかない。
「大丈夫だって」
安心させるように笑ってみせるレオナルドに、奏澄は唇を噛みしめた。
誰も置いていきたくはない。でも、そういうわけにはいかない。だから。
「オリヴィア総督」
奏澄は真っすぐオリヴィアと向き合った。
「レオナルドを、丁重に扱うと約束してください。もし彼に何かあった場合、私たちだけでなく、四大海賊を全員敵に回すことを覚悟してください」
「随分大きく出たものね」
「ご存じでしょう。私は、今日共に来た朱雀、青龍。そして白虎、玄武。全ての船長と繋がりがあります。私が呼びかければ、全員動いてくれるでしょう」
半分程度は、はったりだ。けれど、確信もあった。元々レオナルドと面識のある玄武は、動くだろう。セントラルの非道に批判的な白虎も、黙っていないはずだ。そして奏澄を『いい奴』と言ってくれた朱雀も、協力してくれるだろう。青龍はバランスを見るタイプだ。三つの海賊団が全て動くとなれば、青龍も加わるはず。
今のセントラルはまだ、四大海賊全てを敵に回すことは避けたいはずだ。
睨むような気迫の奏澄に怯むこともなく、オリヴィアは軽く息を漏らした。
「人道的に扱うと言ったでしょう。彼の同意が得られないことは、何もしないわ。王家の血に誓って、約束しましょう」
不安は残るが、少なくとも言質はとった。これ以上は疑ってかかるとキリがない。
「レオ」
奏澄はレオナルドに声をかけると、その体をぎゅっと抱き締めた。
「ありがとう。絶対、迎えにくるから。待っててね」
「ああ。待ってる」
信頼のハグを交わして、レオナルドは兵に連れられて行った。
拳を握りしめてその背中を見送り、奏澄は仲間の顔を見渡した。
「行こう」
「みんな!」
わあ、と歓声が上がり、カスミがもみくちゃにされる。久しぶりの再会に、状況も相まって、奏澄はうっすらと涙を浮かべていた。
条件を呑んだことで、オリヴィアはそのまま地下牢へと向かい、奏澄の仲間たちを解放した。アンリが現役だと言っていた通り、城の地下牢は罪人の一時拘留場所として使われていた。一度ここに入れられた後、裁判などを終えると、重罪人は監獄島へ、それ以外は別所にある刑務所へ送られる。
地下牢には、たんぽぽ海賊団の仲間たちが揃っていた。
赤の海域からは、マリーたちドロール商会のメンバー、ライアー。緑の海域からは、予想通りアントーニオとラコット一味が。そして、青の海域から、レオナルドも連れて来られていた。玄武は事情があって来られなかったか、あるいはレオナルドの工房は一人で営業しているため、大きな騒ぎとならず、耳に入らなかったのかもしれない。
「カスミ、一人か? メイズさんは?」
ライアーが真っ先にメイズの存在を気にかけた。一人でオリヴィアと行動していたことに、驚いているようだった。
「大丈夫、一緒に来てるよ。ハリソン先生も。ただ、今はちょっと別の場所で待機してるけど」
苦笑した奏澄に、ライアーが心配そうに眉を寄せた。きちんと説明したいが、この場でそれをする時間は無い。オリヴィアから、早くしろというプレッシャーを感じる。
そう。仲間たち全員を、このまま外へ連れ出すわけにはいかないのだ。だからメイズと合流せず、奏澄一人を案内したのだろう。
奏澄は仲間たちに向き直って、一人一人の顔を見た。
「ごめんなさい。みんなのこと、迎えにきたよって言いたかったんですけど……まだ、そういうわけにはいかないんです」
そう前置きして、奏澄は簡潔にオリヴィアとの取引内容を告げた。
「だから、誰か一人はここに残ってもらわないといけない。本当に申し訳ないけど……必ず、もう一度迎えにくるから……!」
頭を下げた奏澄に皆は顔を見合わせ、誰ともなく手を上げた。
「俺残ります」
「いや、オレ残りますよ、一番年下だし」
「俺残るって。頑丈だし」
「バカ、戦力は減らせねぇだろ。オレが」
自分が自分が、と言い出す仲間たちに、奏澄は少しの間呆けた後、場違いにも某コントを思い出して笑った。たった一人、敵陣に置き去りなんて。なんて酷い行いだろう、と思うのに。こんな風に、奏澄が気にしなくていいように振る舞ってくれる。その心づかいが、泣きたいほどに嬉しかった。
「俺が残る」
やいやい言い合う中、凛と声を発したのはレオナルドだった。
「お前はダメだろ」
「むしろ、俺が一番適任だろ。セントラルに残るのは、誰でもいいってわけじゃない」
首を傾げる仲間たちを無視して、レオナルドはオリヴィアに視線を向けた。
「セントラルにいる間、どう扱われるかわからない。カスミが戻っても、セントラルが約束を守る保証もない。その点俺なら、少なくとも殺される心配はない。なんせ、半分はぐれ者の血が流れてるからな」
不敵に笑うレオナルドに、オリヴィアは黙ったまま視線を鋭くした。
「利用価値があるのに、雑に扱ったりはしないよな?」
「そうね。人質は人道的に扱うわ。多少は研究に協力してもらうかもしれないけど」
「研究って……!」
奏澄はハリソンの言葉を思い出していた。セントラルでは、はぐれ者を人間扱いしていない、と。いくらなんでも、そんな環境に置いていくわけにはいかない。
「大丈夫だって」
安心させるように笑ってみせるレオナルドに、奏澄は唇を噛みしめた。
誰も置いていきたくはない。でも、そういうわけにはいかない。だから。
「オリヴィア総督」
奏澄は真っすぐオリヴィアと向き合った。
「レオナルドを、丁重に扱うと約束してください。もし彼に何かあった場合、私たちだけでなく、四大海賊を全員敵に回すことを覚悟してください」
「随分大きく出たものね」
「ご存じでしょう。私は、今日共に来た朱雀、青龍。そして白虎、玄武。全ての船長と繋がりがあります。私が呼びかければ、全員動いてくれるでしょう」
半分程度は、はったりだ。けれど、確信もあった。元々レオナルドと面識のある玄武は、動くだろう。セントラルの非道に批判的な白虎も、黙っていないはずだ。そして奏澄を『いい奴』と言ってくれた朱雀も、協力してくれるだろう。青龍はバランスを見るタイプだ。三つの海賊団が全て動くとなれば、青龍も加わるはず。
今のセントラルはまだ、四大海賊全てを敵に回すことは避けたいはずだ。
睨むような気迫の奏澄に怯むこともなく、オリヴィアは軽く息を漏らした。
「人道的に扱うと言ったでしょう。彼の同意が得られないことは、何もしないわ。王家の血に誓って、約束しましょう」
不安は残るが、少なくとも言質はとった。これ以上は疑ってかかるとキリがない。
「レオ」
奏澄はレオナルドに声をかけると、その体をぎゅっと抱き締めた。
「ありがとう。絶対、迎えにくるから。待っててね」
「ああ。待ってる」
信頼のハグを交わして、レオナルドは兵に連れられて行った。
拳を握りしめてその背中を見送り、奏澄は仲間の顔を見渡した。
「行こう」