なにが、『最高の友達』よ。

好きな人に堂々と友達宣言されて、ただでさえ元々ボロボロだった心にとどめを刺された気分。

こっちの気持ちは最低だよ。



だけど、どうしてだろう。

一馬の言葉を聞いて、胸の奥にあたたかな光があふれるのを感じた。



「……恥ずかしいやつ」



照れ隠しにそうつぶやいて、泣きそうになるのをこらえた。



好きだよ、一馬。

この気持ちにもっと早く気付いて伝えることができていたら、私は、一馬にとってのヒロインになれていたのかな。

一馬の好みの女の子とは違うけれど。そんなの関係ないって言って手を取り合っていられたのかな。

タキシード姿の一馬のとなりで、ウエディングドレスを身に纏って、笑えていたのかな。



何度考えても、もしもの話でしかない。
現実は変わらないし、今更この恋が叶うわけでもない。

じゃあ、私にできることなんてひとつしかない。



一馬の目をしっかりと見つめて、息をひとつ吸い込んだ。
そして、声に乗せた言葉は



「結婚おめでとう、一馬」



半分本音で、半分強がりのひと言だ。

こんなこと、言いたくないよ。
言ったあとでもまだ、心の中には抵抗したがる自分がいる。

まだ胸に穴は空いたまま。
失恋の悲しさも、寂しさも、なにひとつ消せやしない。

一馬の結婚報告の日から、この恋に今更気付いた自分を何度も責めた。

自分を責めて過去に後悔して、彼女に嫉妬してうらやんだ。そんな自分がいやになって落ち込んで、とそればかりを繰り返してた。



だけどもうこれ以上、自分のことを嫌いになりたくないよ。

好きな人の幸せを願える自分になりたい。

その想いから、精いっぱいの笑顔をつくった。



「お嫁さんと子供だけじゃなく、一馬も幸せになってくれなきゃいやだよ。
……私の、最高の友達なんだから」



私の言葉に、一馬は一瞬泣きそうに表情を緩めた。
けれど慌てて我慢するように俯いて、再び顔を上げてみせる。

涙をこらえるように鼻を赤くさせる。
その姿から、私の言葉を心から喜んでくれているのだと知り、思わず私の目尻にも涙がにじんだ。



想いは伝えずに、大切な友達のままでいる。

思い出を美しいまま残したいから。
ヒロインにはなれなくても、友達としてでも、彼の幸せを祈りたいから。

それが、私が出したこの恋の終わらせ方。



とは言え『はい、じゃあこれでおしまい』なんて簡単には割り切れない。

店を出て帰り道を歩くときにはきっと、こらえきれずに泣いてしまうだろう。

大人げなく思い切り泣いて、前も見えずに立ち止まってしまうだろう。

これからの日々の中でも一馬を想う瞬間があって、その度苦しくなるだろう。



だけど私の胸に残るあの口約束とともに、いつか『そんなこともあったね』と笑って話せたらいい。


そんな未来を夢見る今は、まだ。

この切なさとともに夜を越えて。





end.