秋川、本当に末期がんで余命半年なのかな。

秋川のくどくどしたお説教が嫌だったから、ちょっとふざけて、余命半年って言っただけだったのに、まさか「俺も」なんて言われる展開になるとは。

健康診断で見つかって、大学病院で精密検査したら、ステージ4の末期がんだって診断されたって言っていたけど……。

理桜(りお)、ため息なんかついちゃって、どうした?」

チョコパに向かっていた由美(ゆみ)ちゃんがパチパチと瞬きをしてこっちを見る。
由美ちゃんは予備校の友達で、今、授業が終わって帰りに駅前のファミレスに寄り道をしている所。

「いや、あのさ」

――今言った事は忘れてくれ。それからくれぐれも誰にも言うなよ。

予備校の面談室で、ほんの一時間前に言われた秋川の言葉が過る。
さすがに秋川が余命半年って話は由美ちゃんに言えないか。

「なんでもない」

ニッと笑顔を浮かべて、プリンアラモードを食べる。
やっぱ勉強した後は甘い物だよね。

「ああ、ついに受験だよ。いやだねー。灰色の高三」

由美ちゃんがため息をついた。

「だね。もう10月だもんね。そろそろ本格的に勉強しないとヤバいよね」
「うん。ヤバい。それでさ、理桜、現文の宿題だけど」

由美ちゃんが問題集を出して、自然と勉強になる。
勉強は嫌いだけど、大学に落ちる訳にもいかない。うちは浪人させる余裕ないって、母親にも父親にもうるさく言われている。

今日、秋川から渡された模試の結果を見せたら、お説教だろうな。
はあー。家に帰りたくない。