ここは予備校の面談室。模試の結果が見事に右肩下がりの私に担任の秋川(あきかわ)がお説教をする。

佐々木(ささき)、もう少し頑張ったらどうだ?」

これでも頑張っているんです。と心の中で返す。

「なんだその不満そうな顔は?」
「別に」

くどくどとまた秋川のお説教が続く。古文が出来ていないとか、英語の単語が全然覚えていないのが原因だとか。
あーうるさい! 早く終わらないかな。そう思った時、昨日見た余命ものの映画を思い出し、お説教から逃げるいい口実だと思った。

「先生、私、余命半年なんです。だから勉強する意味ないと思うんです」

メタルフレームの眼鏡越しの目が唖然としたように私を見る。
やっぱこの手はダメ? そう思った時、秋川が「奇遇だな。実は俺も余命半年だ」と言った。

え……?

「嘘だ」

だって秋川、どう見ても元気そう。さっきだって一時間黒板の前に立って、現代文の講義していたし。

今だってネチネチと嫌味ったらしく話していた。少しも病人らしくない。

「嘘だなんて。悲しいな。これでもステージⅣの末期がん患者なんだぞ」

ステージⅣって昨日見た映画のヒロインもそうだった。体中に癌が転移してどうしようもない状態……。
本当に秋川は末期がんなの?

視線を向けると、秋川は物憂げな顔をしてため息をついた。

えっ、えっ、えっ……マジ?

「今言った事は忘れてくれ。それからくれぐれも誰にも言うなよ」

秋川が深刻そうに眉を寄せる。
そんな秋川の悲しげな表情、初めて。

普段の偉そうな秋川とギャップがあり過ぎ……。
信じられないけど、本当なの?

「秋川先生、本当に余命半年なの?」

秋川が静かに頷く。

「だからな、俺も佐々木も余命半年なんだから、悔いのないように生きなきゃいけないんだ。佐々木も辛いと思うが、一緒に頑張ろう」

秋川、私の嘘信じている……。
とても嘘でしたとは言えない空気。

「は、はい」
「よし。じゃあ目の前の勉強を頑張ろう。人生の最期に大学合格の通知をもらおうじゃないか」
「はい。先生、私、勉強頑張ります!」

あれ? こんなはずじゃなかったのに。