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告白されたあの日から、なんとなく私は毎朝冬李くんと同じ電車に乗って登校している。
別に冬李くんのことをよく知るためとか、早く答えをだすためとか、そんな綺麗な理由じゃない。
……ただ、告白されたことがきっかけで、冬李くんと気まずくなったりしたら、嫌だと思ったから。
少しでも、話す時間を増やそうと思った。
私は小学生の頃、好きだった人がいた。
特別親しかった訳じゃないから、その人とは小学校を卒業してから一度もあっていない。
それに元々、少し話しただけだし、好きになる方がおかしいんじゃないかみたいな感じだから、本当に好きだったのかどうかすら確かでは無い。
ずっと苗字で呼んでいたから、もう下の名前は覚えていないけれど。
……中野くん、彼との思い出は、つい先程のできごとかのように思い出せる。
私には持病があった。
学校はよく休んでいたし、体育なんて、ほとんど出ていない。週に一回、昼休みを浸かってクラス全員で遊ぶやつにも、たまにしか参加出来ずにいた。
いつもは鬼ごっこやドッジボールなど、体を動かすものが多いけど、今日は珍しくかくれんぼをやるらしいので、私も参加してみようと思った。
「じゃあ、女子が隠れるから、男子は五分後に探しに来てね!」
クラスの中心にいる七乃さんが仕切ると、女の子たちは一斉に走って、隠れ場所を探しに行ってしまった。
私も負けないようにいい所に隠れないと。
みんな、友だちと一緒に隠れ場所考えてる。
……それに比べて私は、ひとりぼっち。
羨ましいな。
私は人見知りな性格や、学校とか体育の授業を休みがちなのが原因でクラスから浮いていた。
……でも、大丈夫!
なんていったって、私にはとっておきの隠れ場所があるから!
それで、「どうやってこの場所考えたの?」とか、「天才じゃん!」ってみんなに囲まれて……!
みんな、驚いてくれるかな。
なんて考えていたら、二十分ほど経ってしまい、もうすぐ校舎に戻らないといけない時間になってしまった。
校庭中に溢れていた笑い声が、だんだんと遠くなっていく。
……もしかして、いつも参加できてないから、忘れられてるのかな。
でも……、しょうがないよね。私、誰かに参加するとか伝えたわけじゃないし、そもそも私がいたことに気づいてないのかも。
……でも、大丈夫。
変な期待をした、私が悪いんだから。
……視界がだんだんと滲んでいく。
ダメだと思っているのに、私はそれを止めることが出来なかった。
……いっそのこと、誰かが私に気づくまでこのまま待っていようか。
なんてことをぼんやりと考えていた。
「……百瀬さん、いたっ!」
声の聞こえる方に目を向けると、ハァハァと肩で息をしている中野くんが立っていた。
どうして来てくれたの、どうして探してくれたの、どうして汗をかいてるの。どうして、どうして、どうして。
いくつものどうしてが頭の中に浮かんできたが、どれも泡沫のように消えてしまい、声に出すことはできなかった。
「百瀬さん、今日参加してたから、嬉しくって、ずっと探してたんだけど、僕、探すの下手で……」
中野くんは苦しそうに喘ぎながらも一つ一つ、暖かい言葉を私に届けてくれた。
「遅くなってごめんね。一緒に、戻ろう?」
中野くんは私に手を差し伸べてくれた。
それが嬉しくて、嬉しくて、仕方がなくって。
私は手を握ると、中野くんが来た衝撃で止まっていた涙が再び溢れ出してしまった。
「え、だっ、大丈夫!?」
もう片方の手で涙を拭い、私はニコリと笑って見せた。
「うん、大丈夫。あ……、ありがとう……!」
「……よかった。それじゃあ、行こうか」
中野くんが優しく手を引いてくれて、私は数十分ぶりに太陽の下を歩くことができた。
ずっと日陰にいたせいか、中野くんと一緒にいるせいか、私の身体はものすごく暖かかった。
……それから私は体調を崩してしまい、学校を長期休むことにした。
次に学校に行けたのは二ヶ月近く後で、やっぱり二ヶ月近く行ってなかった教室には私の居場所はなかった。
それでも変わっているものもあって。
グループの入れ替えがあっていたり、イメチェンをして、クラスの人気者になっている人もいた。
……そして何より驚いたのが、中野くんがクラスでハブかれていたことだ。
何があったのか知りたかったけど、私には何があったのか教えてくれる友だちはいない。
そして、人に聞く勇気も持ち合わせていなかった。
私は前に中野くんに助けられたのだから、私が中野くんを助けるべきだと思った。
……けれども教室から感じられる、中野に話しかけるなという雰囲気に負け、私は彼を救うことができなかった。
……中野くんと冬李くんはよく似ている。
どこがどう似ているのかと聞かれるとうまく答えられないけど、どことなく、雰囲気が似ているのだ。
困ってる人を放っておけない、暖かいお日さまみたいな人。
もう一度中野くんに会えたらと思うけど、何を話したらいいか分からないし、相手も困るだろう。
それに、今の私は昔の私と似ても似つかないような雰囲気だし、そもそも中野くんは気づかないだろう。
そもそも、私のことなんて、覚えていないんじゃないか。
……でも、それでもいいと思う。
他人任せではあるけど、中野くんが私にしてくれたように、誰かが中野くんを救って、幸せに笑ってるって信じているから。