やっぱり、うつ病ってつらい。
だって、めっちゃ、つらくなるし。
自分のことが、嫌いになるし。
そんなことを思いながら過ごしていたら、連れてかれるのが精神科の入院施設。
うつ病は辛いなんてもんじゃない。
だからこそ、入院施設で治すことができたなら、すごく幸せなんじゃないか。
そんなふうに、思う。
それでも。
入院施設は、本当にいろんな患者さんがいて。
おれは、その中でも結構若い方だけど、お年寄りの方々とかたくさんいて、そんな人たちに寄り添ってあげるナースの方々は、本当に尊敬で。
その中でも、浜松さんっていうナースの方が、めっちゃ患者さんのことを気にかけてくれて、すごいいい人だなあって思う。
浜松さんは、色んな患者さんを助けてあげていて、誰とでも平等に話していて、多分おれと同じくらいの歳なんだろうなって思う、すごく優しいし、あと、顔ちっさくて、可愛くて、それで、なんか、愛おしくて、ナース服が似合って・・・・・・って、そんなこと考えちゃだめだめ!相手はナース、自分ことなんてなんとも思ってない、そう思わなきゃ、あとで辛い思いをするのは自分だから、なんて自分に言い聞かせながら、それでもうつ病はやっぱり辛くて、おれは、本当のことを言うと浜松さんのことが大好きなんだけど、それでも、うつ病の患者さんのことを浜松さんが好きになるわけがないっていうか、そんなふうに思う。精神科に入院してから1か月が経つ。おれは、うつ病に加えて不眠症も患っている。
精神科に入院しているときは、何も、楽しいことなんてない。
ずーっと、天井を見つめているだけで。
それで。
ホールからかすかに聞こえてくるテレビの音だけが、おれにとっての救いだった。
「今日の夜は、ペルセウス座流星群が、空を彩ります。次に、お天気です……」
一日中おなじようなニュースを聞きながら、天井を見つめる。
午後十時から二時は、散歩くらいなら許されている。
おれは、近くの公園を散歩した。
綺麗な公園で、鳥や、花の写真を撮っている人が大勢いる。
夕食後。午後七時になると、部屋に夜勤のナースの方々が様子を見に来る。
「調子はどうですか」
今日は、浜松さんが見に来てくれた。
浜松さんは、ナースの中でも、いちばんおれの年に近い気がする。
おれは今24歳で、仕事を始めてすぐにうつ病になってしまった。
だから、浜松さんみたいに仕事を頑張っている人を見ると、少しだけ、みじめになる。
「なんとなく、寂しい感じがします」
「まあ、ずーっと部屋にこもっていますもんね……大丈夫です、私たちがついていますから!」
そう、浜松さんが言うと、ニカッ、と笑う。
そして、浜松さんは、カーテンを閉め、隣の病床の人の様子を見に行く。
「調子はどうですかー……」
浜松さんは、いつも、明るくて、優しくて。
ほかのナースさんだと、結構、厳しかったり、する人もいる。
それでも。
浜松さんは、おれのことをしっかりと考えてくれて。
おれの気持ちをしっかりと考えてくれて、看病してくれる。
おれも、あんなふうに仕事ができたらな、なんて。
憧れの存在だった。
でも、実際、おれもそんな風に仕事は、多分だけど出来ていたのだ。
接客業で、お客様の立場に立って仕事をしていた。
それでも。
お客様の立場に立つということは、お客様の気持ちに共感をするということ。
おれは、お怒りのお客様の気持ちにも、十分に共感してしまっていた。
仕事だから、と割り切れなかった。
それなのに。
おれと同い年なのに。
きちんと、こうして患者さんの目線に立って何かを考える浜松さんは、とても尊敬する。
すごいと思う。
午後八時半になると、睡眠薬、眠剤を、ホールで配られる。
おれは、それを飲むと、深い眠りに落ちる。
電気がついていて、テレビもついているホールで配られた眠剤を飲み、部屋に戻る。
午後九時になると、電気が切れる。
そして、ホールの真ん中にあるナースステーションだけかすかな光を放つ以外に、光は消えてしまう。
でも。
なぜか。
今日は。
眠れない。
ずーっと、目をつむりながら。
もう、二時間くらいが経過したのではないだろうか。
午後、十一時。
おれは、眠れないから、ホールから見えるナースステーションに行った。
「すみませーん」
反応が、無い。
何回か、ノックしてみた。
「すみませーん……」
浜松さんが、窓を開けてくれた。
「ん-、どうしたのー?」
浜松さんは、二つ縛りに分けた髪型で、目をこすりながら、あくびをする。
「眠れなくて、追加の眠剤が欲しいです……」
「わかったー。田中君ねー。ちょっと待ってねー。田中君、田中君……」
浜松さんは、おれのカルテをぼーっとしながら探す。
「あ、あった!えーっと、この薬ね!あれ、待って?田中君、私と同い年じゃん!」
「本当!? ……ですか?」
「うん! 同い年! そっか、同い年なんだ!」
「そっか……嬉しいです! 浜松さんと、同い年って! なんか、親近感がわいてきます」
「そうだねー、なんか、親近感がわいてくるね!いいよ、敬語使わなくて……」
「そっか」
浜松さんは、棚から何かを取り出した。
「はい、眠剤」
「あ、ありがとうございます」
浜松さんは、フフっと笑った。
「これで眠れるといいね」
「……うん!」
「じゃあね」
浜松さんは、窓を閉めた。
自分の部屋に戻ろうとした。
その時に、窓の外をちらっと見たんだ。
すると。
たくさんの星が、降っていた。
おれは、真っ暗な病院のホールの窓の方に行った。
そして、星を眺めた。
たくさんの星が、降っている。
とっても綺麗で、幻想的だ。
「綺麗だねー」
隣を見ると。
浜松さんがいた。
「うん、とっても綺麗。」
そんな、浜松さんの横顔もすごくきれいで。
「ずっと、浜松さんと一緒にいれたらいいな……」
あっ。
本音が。
漏れてしまった。
「フフッ、そうだね。ずっと一緒にいれたら、いいかもね」
星が、綺麗に、降っている。
その横顔に、星の光が映る。
「おれ、明日退院なんだよね」
「え!? ……そっか」
「だから、浜松さんとはもう、会えなくなる」
「そっっ……か」
「浜松さん、今度の週末、空いてたりする?」
浜松さんは、フフッ、と笑う。
「看護師と患者は、看護師と患者だよ」
流れ星が流れる。
おれの眼から、涙が流れた。
「そっか……。そうだよね」
「ごめんね、そう、なっちゃってるから。でも、退院になって、よかったね」
「よかったけど、よかったけど、嫌だよ、浜松さんと、離れたくない」
「そっか。そんなに、私のことを大切に思ってくれていたんだね。嬉しいな」
浜松さんの眼からも、涙があふれた。
「ごめんね、患者さんと付き合ったりしたら、私、仕事辞めなきゃいけなくなっちゃうから、ダメなの。でもね、本当にありがとう。大切に思ってくれて。私も、田中君のこと、大好きだよ」
流れ星が流れるその刹那、おれと浜松さんは、小さく、キスをした。
眠剤を飲んで、深い眠りについた。
朝起きたら、ベッドが涙でぬれていた。
体温を測る。
平常な体温だった。
ナースとして、浜松さんはてきぱきと仕事をする。
そんな浜松さんを、おれは、直視できなかった。
昨日、おれは。
フラれたんだ。
浜松さんに。
いや、でも。
仕方なかった。
だって。
浜松さんは、仕事だから。
少し悲しいけど、おれは今日、退院で。
おれは、朝ご飯を食べた後、荷物をまとめて、病院を後にした。
「田中くーん」
振り返ると、浜松さんが走ってきた。
「浜松さん」
「はあ、はあ」
浜松さんは、顔を上げた。
「会えなくなっても、ずっと、大好きだよ!」
だって、めっちゃ、つらくなるし。
自分のことが、嫌いになるし。
そんなことを思いながら過ごしていたら、連れてかれるのが精神科の入院施設。
うつ病は辛いなんてもんじゃない。
だからこそ、入院施設で治すことができたなら、すごく幸せなんじゃないか。
そんなふうに、思う。
それでも。
入院施設は、本当にいろんな患者さんがいて。
おれは、その中でも結構若い方だけど、お年寄りの方々とかたくさんいて、そんな人たちに寄り添ってあげるナースの方々は、本当に尊敬で。
その中でも、浜松さんっていうナースの方が、めっちゃ患者さんのことを気にかけてくれて、すごいいい人だなあって思う。
浜松さんは、色んな患者さんを助けてあげていて、誰とでも平等に話していて、多分おれと同じくらいの歳なんだろうなって思う、すごく優しいし、あと、顔ちっさくて、可愛くて、それで、なんか、愛おしくて、ナース服が似合って・・・・・・って、そんなこと考えちゃだめだめ!相手はナース、自分ことなんてなんとも思ってない、そう思わなきゃ、あとで辛い思いをするのは自分だから、なんて自分に言い聞かせながら、それでもうつ病はやっぱり辛くて、おれは、本当のことを言うと浜松さんのことが大好きなんだけど、それでも、うつ病の患者さんのことを浜松さんが好きになるわけがないっていうか、そんなふうに思う。精神科に入院してから1か月が経つ。おれは、うつ病に加えて不眠症も患っている。
精神科に入院しているときは、何も、楽しいことなんてない。
ずーっと、天井を見つめているだけで。
それで。
ホールからかすかに聞こえてくるテレビの音だけが、おれにとっての救いだった。
「今日の夜は、ペルセウス座流星群が、空を彩ります。次に、お天気です……」
一日中おなじようなニュースを聞きながら、天井を見つめる。
午後十時から二時は、散歩くらいなら許されている。
おれは、近くの公園を散歩した。
綺麗な公園で、鳥や、花の写真を撮っている人が大勢いる。
夕食後。午後七時になると、部屋に夜勤のナースの方々が様子を見に来る。
「調子はどうですか」
今日は、浜松さんが見に来てくれた。
浜松さんは、ナースの中でも、いちばんおれの年に近い気がする。
おれは今24歳で、仕事を始めてすぐにうつ病になってしまった。
だから、浜松さんみたいに仕事を頑張っている人を見ると、少しだけ、みじめになる。
「なんとなく、寂しい感じがします」
「まあ、ずーっと部屋にこもっていますもんね……大丈夫です、私たちがついていますから!」
そう、浜松さんが言うと、ニカッ、と笑う。
そして、浜松さんは、カーテンを閉め、隣の病床の人の様子を見に行く。
「調子はどうですかー……」
浜松さんは、いつも、明るくて、優しくて。
ほかのナースさんだと、結構、厳しかったり、する人もいる。
それでも。
浜松さんは、おれのことをしっかりと考えてくれて。
おれの気持ちをしっかりと考えてくれて、看病してくれる。
おれも、あんなふうに仕事ができたらな、なんて。
憧れの存在だった。
でも、実際、おれもそんな風に仕事は、多分だけど出来ていたのだ。
接客業で、お客様の立場に立って仕事をしていた。
それでも。
お客様の立場に立つということは、お客様の気持ちに共感をするということ。
おれは、お怒りのお客様の気持ちにも、十分に共感してしまっていた。
仕事だから、と割り切れなかった。
それなのに。
おれと同い年なのに。
きちんと、こうして患者さんの目線に立って何かを考える浜松さんは、とても尊敬する。
すごいと思う。
午後八時半になると、睡眠薬、眠剤を、ホールで配られる。
おれは、それを飲むと、深い眠りに落ちる。
電気がついていて、テレビもついているホールで配られた眠剤を飲み、部屋に戻る。
午後九時になると、電気が切れる。
そして、ホールの真ん中にあるナースステーションだけかすかな光を放つ以外に、光は消えてしまう。
でも。
なぜか。
今日は。
眠れない。
ずーっと、目をつむりながら。
もう、二時間くらいが経過したのではないだろうか。
午後、十一時。
おれは、眠れないから、ホールから見えるナースステーションに行った。
「すみませーん」
反応が、無い。
何回か、ノックしてみた。
「すみませーん……」
浜松さんが、窓を開けてくれた。
「ん-、どうしたのー?」
浜松さんは、二つ縛りに分けた髪型で、目をこすりながら、あくびをする。
「眠れなくて、追加の眠剤が欲しいです……」
「わかったー。田中君ねー。ちょっと待ってねー。田中君、田中君……」
浜松さんは、おれのカルテをぼーっとしながら探す。
「あ、あった!えーっと、この薬ね!あれ、待って?田中君、私と同い年じゃん!」
「本当!? ……ですか?」
「うん! 同い年! そっか、同い年なんだ!」
「そっか……嬉しいです! 浜松さんと、同い年って! なんか、親近感がわいてきます」
「そうだねー、なんか、親近感がわいてくるね!いいよ、敬語使わなくて……」
「そっか」
浜松さんは、棚から何かを取り出した。
「はい、眠剤」
「あ、ありがとうございます」
浜松さんは、フフっと笑った。
「これで眠れるといいね」
「……うん!」
「じゃあね」
浜松さんは、窓を閉めた。
自分の部屋に戻ろうとした。
その時に、窓の外をちらっと見たんだ。
すると。
たくさんの星が、降っていた。
おれは、真っ暗な病院のホールの窓の方に行った。
そして、星を眺めた。
たくさんの星が、降っている。
とっても綺麗で、幻想的だ。
「綺麗だねー」
隣を見ると。
浜松さんがいた。
「うん、とっても綺麗。」
そんな、浜松さんの横顔もすごくきれいで。
「ずっと、浜松さんと一緒にいれたらいいな……」
あっ。
本音が。
漏れてしまった。
「フフッ、そうだね。ずっと一緒にいれたら、いいかもね」
星が、綺麗に、降っている。
その横顔に、星の光が映る。
「おれ、明日退院なんだよね」
「え!? ……そっか」
「だから、浜松さんとはもう、会えなくなる」
「そっっ……か」
「浜松さん、今度の週末、空いてたりする?」
浜松さんは、フフッ、と笑う。
「看護師と患者は、看護師と患者だよ」
流れ星が流れる。
おれの眼から、涙が流れた。
「そっか……。そうだよね」
「ごめんね、そう、なっちゃってるから。でも、退院になって、よかったね」
「よかったけど、よかったけど、嫌だよ、浜松さんと、離れたくない」
「そっか。そんなに、私のことを大切に思ってくれていたんだね。嬉しいな」
浜松さんの眼からも、涙があふれた。
「ごめんね、患者さんと付き合ったりしたら、私、仕事辞めなきゃいけなくなっちゃうから、ダメなの。でもね、本当にありがとう。大切に思ってくれて。私も、田中君のこと、大好きだよ」
流れ星が流れるその刹那、おれと浜松さんは、小さく、キスをした。
眠剤を飲んで、深い眠りについた。
朝起きたら、ベッドが涙でぬれていた。
体温を測る。
平常な体温だった。
ナースとして、浜松さんはてきぱきと仕事をする。
そんな浜松さんを、おれは、直視できなかった。
昨日、おれは。
フラれたんだ。
浜松さんに。
いや、でも。
仕方なかった。
だって。
浜松さんは、仕事だから。
少し悲しいけど、おれは今日、退院で。
おれは、朝ご飯を食べた後、荷物をまとめて、病院を後にした。
「田中くーん」
振り返ると、浜松さんが走ってきた。
「浜松さん」
「はあ、はあ」
浜松さんは、顔を上げた。
「会えなくなっても、ずっと、大好きだよ!」