「その杖、王妃のものだなっ! いったいどこから! こしゃくな。そんな物をもってるんじゃ、話にならんね。これでほんとにおまえの最期だ」
 すると急に辺りが暗くなり、濃い霧が出てきた。目の前は真っ白になり、カトリーヌは目を凝らした。よく見るとそこは森の中で、以前どこかで見た風景だった。少し歩くと、大きな木があることに気がついた。そして霧が薄らいでくると全てが明るみに出た。フローラ姫とタムがその大きな木に縛り付けられていた。それは魔女の塔で見た幻の光景と同じだった。しかしその木の前にはパーリヤがいた。
 一瞬これはまた幻なのではないかと思ったが、パーリヤがしゃべり出した。
「おまえは、フローラ姫とタムがずいぶんお気に入りのようだから、その杖と交換といこうじゃないか」
フローラ姫は鋭く叫んだ。
「駄目よ、カトリーヌ。その杖は王妃のものだったのよ。それもまたピアノと同じ形見、絶対渡しちゃ駄目よ!」
「そうだ、カトリーヌ、そいつの言いなりになっちゃならん!」
「おまえらは黙れ、うるさい。さあ、取引といこうじゃないか。こいつらの命と交換だ」
「命と?!」
「そうだ、見ろ、彼らの側に妖精がいるだろ」
 言われると、身動きのとれないフローラ姫とタムの首のあたりに何人かの妖精が飛んでいるのが見えた。手には小振りの剣を持っている。
「おまえが、その杖を渡さないと二人は妖精達に殺される」
「そんなっ! これは私とあなたの魔法勝負。二人は関係ないじゃないですか」
「そうだ、勝負だ。勝負には生死が関わるものだ。おまえは汚いというかもしれないが、そんなこと知ったことか。勝負とは勝った者が一番なのだ。さあ、渡せ」
「駄目、渡しちゃ!」
「俺らのことは気にするなっ、そう、これは幻だ! だから気にするな」
「うるさい奴らだ、少し痛めつけろ」
パーリヤが、妖精に命じると、彼らはその剣で、タムの足を一突きした。
「キャイン」
さすがに痛かったのか、タムが犬の声で鳴いた。みるみるうちに足から血が出てきた。
「止めてください!」
カトリーヌは胸の張り裂ける思いで叫んだ。
「ははっ、次はフローラ姫の首に突き刺すぞ」
「分かりました! すぐ渡します」
「駄目、こっちに来ちゃ駄目」
 フローラ姫が必死に叫ぶのも聞かずにカトリーヌは二人に近づいた。
「そうだ!いい子だ、カトリーヌ、さあ、こっちに来い」