「パーリヤ、おまえじゃあるまいし、俺はそんなことはしない。正当な戦いに誰も口を挟んだりはしないさ」
 するとカトリーヌとパーリヤは向き合った。見守っていた王とフローラ姫は、二人の戦いの邪魔にならないよう、広間の端へと移動した。
「それじゃあ、二人同時にこう言え。私は負けたらこの国を去り、二度と来ぬと」
 二人は息を整えると、一緒になって同じ言葉を述べた。
「私は負けたらこの国を去り、二度と来ぬ」
 言うか言わないがうちに、タムは大きな声で呪文を唱え、ふーっと大きな息を二人にかけた。すると二人の心にその言葉が、じわじわと沁み込んでいき、これは絶対そうしなくてはいけない気持ちへと変わっていった。
「それでは、始め」
 タムが二人に戦いを告げると、パーリヤとカトリーヌは、つと間合いをとって離れ向かい合った。
 最初仕掛けてきたのはパーリヤだった。彼女は樫の杖を頭上に掲げると、呪文を唱えた。すると広間の天井から無数の稲光が走った。と思うまもなく部屋の中は豪雨に見舞われた。みるみるうちに広間は水かさが増し、カトリーヌは溺れかけた。フローラ姫と王はタムの魔法によって、宙へと舞い助かった。カトリーヌも宙に舞おうとするが、パーリヤに呪いをかけられ、少しも体を動かすことができなかった。
「はははっ、もう降参かあ。体が動かせなければ何もできぬだろう」
 パーリヤが冷やかしの言葉を投げかけてきた。それならと、カトリーヌは心の中で呪文を唱えた。すると広間にたまっていた水が急に減り出した。どんどん減っていき、気がつくと広間の床はひび割れ、そこからいくつもの大きな穴が現れて、大量の水はその中に入って消えていくようだった。水があっというまに消えていくと、無数の穴から、これまた無数の茶色い生き物がひょっこり現れた。それはモグラ達だった。
「そなた達だったのか」
 宙に舞っていたタムが下へと降りてくると、モグラ達に声をかけた。
「へい、カトリーヌさんに召喚されたんです。床に穴を掘ってくれと。これで水は大丈夫でしょう」
 そう言うと、彼らはまた穴の中へと消えていった。
「ふん、こしゃくな」
 パーリヤは鼻を鳴らしながら、ぼやいた。
「今度は私が魔法をかけます」