「なっ! 私と魔法勝負するというのかっ」
「はい、そうです。もし私が負けたら、私はこの国から出ていきます」
 フローラ姫は慌てて止めに入ったが、カトリーヌの意志は固かった。
「大丈夫です、私は必ず勝ちます」
「でも、負けたら、あなたは……」
「いいんです、それで」
 二人の様子を見ていたパーリヤは、ふんっと鼻を鳴らした。
「ずいぶんと仲良くなったようだな。しかしそれも無駄だってことだね」
 きっとなって、フローラ姫はパーリヤにつかみかかろうとしたが、それを静止したのはカトリーヌだった。
「でも私が勝ったら、あなたはこの国を出ていくんですよ、パーリヤさん!」
「よかろう! この勝負受けて立つ」
 パーリヤは広間全体に轟き渡るような声で言った。
「それなら戒めの魔法をかけてください」
 カトリーヌは淡々と言葉を続けた。
「何っ、戒めの魔法だとっ」
「あなたの言葉は信用できません。だから戒めの魔法を」
「戒めの魔法ってなんなの?」
 側で聞いていたフローラ姫が不思議そうな顔をした。
「自分が約束した言葉を、間違いなく実行する魔法です」
「それなら、確かにパーリヤをこの国から追放できるけど、でも万一負けたら逆にあなたがそうなってしまう……」
フローラ姫は複雑な表情を浮かべた。悲しそうなその顔に、カトリーヌは笑ってこう言った。
「大丈夫です。私は絶対勝ちます」
「本当にそれでよいのか。せっかくこのように会えたというのに、もしそなたが負けてしまったら、私は亡くなったマリアになんと言ったらよいのだ」
「だったら、父がなぜパーリヤを追放しないの! なんなのいったい!」
 泣きそうな顔のフローラ姫は、王の胸を拳で叩きながら訴えた。
「いいんです、フローラ姫。こうでもしないとこのパーリヤという人は去ろうとはしないんです。面目丸つぶれでもしないかぎりは。それはよくわかっているんです。ずっと、ずっと一緒にいたから」
カトリーヌも泣きそうになりながら堪えた。
「ふん、お涙ちょうだいなんぞいらないから、さっさと勝負しなっ」
「ならば、戒めの魔法は俺がかけよう。今ここでおまえら以外に魔法を使えるのは俺しかいないからな。俺が二人に戒めの魔法をかける」
 今まで黙っていたタムが、そっと言った。
「カトリーヌに加担しようとするんじゃないよ!」