「そうです。これは母のピアノです。母が愛用していたピアノです。パーリヤはこのピアノを使って母の魔力を奪い、母を幽霊のまま封印したのです」
「どういうことだ……、パーリヤ……」
 王はまるで迷子の子供のような弱った目で、パーリヤを見つめた。
「まさか王はフローラ姫の言うことを信じるのですか!」
 急に言葉を改め、パーリヤは切なそうな表情を浮かべた。
「父よ、しっかりしてください! あなたの娘も妻も、こいつのせいでめちゃくちゃにされたのですよ」
「しっ、しかし……」
 今まで三人のやり取りを見守っていたカトリーヌが、突然ローブを翻して、隠し持っていた小瓶の粉末をパーリヤにかけた。
「はっくしゅんっ」
 パーリヤはとたんに大きなくしゃみをした。そしてカトリーヌを睨みつけると、すぐさま突進してきた。
「おまえ、いったい私に何をかけた」
 思い切り胸倉をつかまれたカトリーヌは、必死になってパーリヤの腕をほどいた。そして目深にかぶっていたローブを脱ぎ捨てた。白いワンピースを着たカトリーヌを見て、パーリヤは唸った。
「カトリーヌ、おまえだったのか」
「カッ、カトリーヌだとっ?!」 
 突然のことに王はびっくりして立ちすくんだ
「さあ、言え。私に今かけたのはいったい何の粉だ」
「ひとつだけ願いごとを叶えてくれる万能の魔法の粉です」
「何を願った?!」
「あなたが真実しか話さなくなるよう願いました。効き目は数分。でもそれで十分ですよね、王様」
 カトリーヌは目をしばたたいて、王を見た。見つめられた王は、一瞬困ったような顔をしたが、すぐさま自分の娘であることが分かったような表情がありありと浮かんできた。
「ふんっ。いっ、言わぬぞ、私は何も」
 パーリヤは慌てた様子で口を真一文字に結んだが、しかしそれはなんの抵抗にもならなかった。すぐに彼女は話し出した。