魔女の塔は三角錐の形をした建物だった。灰色の石壁で造られ、辺りに漂う雲もつきぬけるぐらいの高さがあった。各階ごとには小さな木枠の窓がついており、真っ正面にはりっぱな赤い木のドアが見える。客人はこちから入ってくるのだが、カトリーヌは裏手にある通用口を使っていた。そこには青色の小さなドアがある。そのドアを開けるとすぐさま魔女の台所へと通じていた。
 エリザベスが先頭を切って、青いドアを開けようとすると、たちまち頭上から真っ黒なカラスが降りてきた。
「おい、カトリーヌ、そいつは誰だ」
 彼は魔女の使い魔の一人で、ガリヤという名のカラスだった。おかしなことがないか、いつも見張っているカラスだ。彼は言うが早いが、目を白黒させた。
「いやや、カトリーヌが二人いる。どうなってるんだ」
 しゃべるカラスを、エリザベスは珍しそうに観察していたが、彼女の後ろからついて来たカトリーヌは、頭の中がパニックになっていた。
『ど、どうしよう。ガリヤのこと忘れてた……。ここはなんとか乗り越えないと……』
カトリーヌは、一か八かといった様子で目をぎゅっとつぶると、早口でこう言った。
「これは、私なの。私分身の術の魔法を覚えたの」
「ほう、分身の術。おまえそんなのご主人様にいつ習ったんだ」
「図書室の中の本で覚えたの」
「ほほう、おまえは本の虫だからなあ。まあ、あり得る話だなあ」
「私、台所の掃除しないといけないから、もう入っていい?」
「おお、いいぞ。俺も森の中を偵察してくるからな」
 ガリヤは疑いもせずに、さっと飛び立ち、森の中へと消えていった。
 カトリーヌの肩から力が抜けた。まずは一段落だ。秘密を持つというのは、どうやら心臓が幾つあっても足りないに違いない。
「今のしゃべるカラスはなあに? あれも魔法なの?」
 エリザベスは、興味津々といった様子でカトリーヌに訊いてきた。
「今のはパーリヤさんの使い魔の一人で、名をガリヤと言います。魔女の塔や、この森の見張り番なんです」
「使い魔って、魔法使いの言うことはなんでも聞くやからでしょ。他にもいるの」
「台所に猫のデリザスがいます。デリザスは口を聞いたりはしませんが、パーリヤさんに告げ口したりはしないので、たぶん大丈夫でしょう」
 カトリーヌは、少し不安に思いつつも、言うことによって自分自身を納得させた。