不服そうなトラヤヌス王子だったが、言われた通りスプーンを皿にかざしてみた。するととたんに、皿の中でそよ風が吹きだし、それとともにうっすらとした水色の糸状のシャーベットがスプーン全体にまとわりついた。
「ちょうどよい大きさになりましたら、お食べください」
 トラヤヌス王子は頃合いを見て、そのままシャーベットを食べた。シャーベットは、本者の風を食べているように軽く、それでいてほのかな甘さが口の中に残った。
「ほほう。これは驚きの手法だな。口の中もさっぱりした」
 機嫌の悪かったトラヤヌス王子は、すぐに唸り笑った。大臣は、内心ほっとしながらも、次の料理を出した。
「次はドラプリュームでございます。こちらはサラマンダーの肉を料理したものです」
「ほう、火の精霊サラマンダーか」
 珍しそうに、トラヤヌス王子はじっと料理を見入った。持ってこられた厚みのある肉料理は、炎に包まれていた。上には湯気の立った濃厚なソースがかけられ、いい匂いが立ち込めていた。
「これは炎に包まれたまま食べてよいものなのか」
「はい、さようでございます。炎は出ておりますが、その炎は魔法で冷たくされておりますので、ちょうどよい温度となっております。そのままお召し上がりください」
 大臣が丁重にそう言うと、トラヤヌス王子は、一口サイズに切り分けられている肉を口の中へと放り込んだ。食べると肉汁が口の中で広がり、濃い味つけのソースとよく絡まった。
「うむ、サラマンダーとは、食べると美味なものなのだなあ」
 肉料理が、かなり気に入ったのか、トラヤヌス王子は歌い出しそうなぐらいご満悦な表情を浮かべた。
「メイン料理も終わり、こちらはサラダでございます。味つけにレモンと月の光を使っております」
 持ってこられたサラダは、じゃがいもとかぶとレモンと月の光を和えたものだった。
「うむ、なかなかさっぱりしたサラダだな。ところで大臣。さっきからフローラ姫の姿が見えぬが、どこへ行っているのだ。それと手の込んだ余興があるとのことだったが、その余興とやらはいったいどこにあるのだ」
 今まで料理に集中していて、気にもとめていなかったトラヤヌス王子だったが、料理も一段落してくると、本来の目的を思い出したかのように、意地悪な笑みを浮かべた。すると給仕を手伝っていたエミリーが、おずおずとこう述べた。