トラヤヌス王子の前には深皿に入った群青色のスープが出された。スープからは、かぐわしい香りが漂い、鼻孔をくすぐった。一見すると、群青色のスープは、色合い的に食欲をそそられなかった。しかし大臣が指をならすと、不思議なことが起こった。スープの中に、突如白い雲のようなものが現れ、どこからともなく風が吹き、雨がスープの中で降り出した。しばらくするとその風がたくさんの雲も雨も吹き飛ばし、気がつくと、晴れ渡った群青色の夜空が姿を現した。そしてその夜空の中にはいくつもの流れ星がすーっと走っていくのが見えた。
「さあ、トラヤヌス王子、その流れ星をスプーンですくってお食べください。善き願いごとを願った時だけ、願いごとが叶うと言われています」
 トラヤヌス王子は目を細めてほくそ笑むと、すぐさまスプーンにたくさんの流れ星をすくい取り、口へと運んだ。流れ星は口の中で軽くはじけ飛び、それとともにスープの水分と混じりあうことによって、コクのある味が広がった。
「ふむ、これは意味合いも味も深みのあるスープだな。なかなか見事だ」
「気に入って頂けて恐縮です。次は魚料理です」
 今度運ばれてきた料理は、白身魚に、赤色やオレンジ色の香辛料のようなものがふんだんにまぶされ、こんがりとした焼き色がついていた。
「こちらはイデリヴィジでございます。かけられている香辛料は、魔法の粉末です。一口食べれば、今まで思いつかなかったようなアイデアが湧いてくる目覚めの料理です」
「ふむ」
 どれどれといった様子で、トラヤヌス王子が口に運ぶと、彼は、はっとした面持ちをした。
「そうかあ、なるほど。この料理には、それだけの力が備わっているようだな。今まで困っていたことが一瞬にして解決したような気がするぞ。それに食感もよい。バターで焼かれているが、そのパリっと焼き色のついた部分と白身魚の柔らかさとが絶妙だ」
 満足そうな表情を浮かべながら、トラヤヌス王子は次なる料理を待っていると
「次はお口直しのシャーベットでございます。そよ風のヴェールです」
 大臣はそう言って皿を出した。見ると皿の中には何も入っていなかった。トラヤヌス王子は、とたんに機嫌を損ねた。
「いったい、どういうことだ! 空っぽの皿とは何を考えているんだ」
「お待ちください。空っぽではございません。その皿にスプーンをかざしてみてください」