見るとその料理は一口サイズの小さな卵型をしており、瑞々しい水色をしていた。つつくと、水分を含んでいるかのようにぷるんと震えた。
「これは魔法の力で切り取った聖地であるボルボワの空です」
 それを聞いたトラヤヌス王子は目を丸くした。
「なんと聖地ボルボワの空というのか」
「さようでございます。ボルボワの地には古くより青き竜が棲まい、神の宝を守っているというそんな伝説がございます。その地に向かえば、その竜の力も備えることができるという噂でございます。これは大昔にバイチェスカ国の王が魔法の力で清らかなる空を切り取ってきたものの一部です。きっと食されれば、竜の力に近いものを得ることができましょう」
 さすがに驚いた様子のトラヤヌス王子だったが、スプーンで空色の卵をすくい、一口で食べ収めた。食べてみると、瑞々しさとともに軽やかな甘さが広がり、眼前に爽やかな空があるようだった。
「うむ、なかなか味もいい」
 トラヤヌス王子は満足そうに頷いた。それを見た大臣は、少しほっとすると、次なる料理を運ばせた。
「次は前菜で、ダリアンエスペリトでございます」
 皿の上には、土台はパイ生地で作られ、丸い赤いものと黄色のものがパイの中に捻じ込んであった。
「ん? これは単なるパイ料理のように見えるが、この赤い物や黄色の物はなんだ」
 注意深く料理を見つめながら、トラヤヌス王子は訊いてきた。
「その赤い物や黄色のものは、きのこの精と対話することにより、魔法で紡がれた菌糸のかたまりです。普通のきのこよりも栄養が豊富なのです。元気がない時に食べれば、体の調子が良くなるでしょう」
「ふん、きのこなど大したものではないなあ」
 そう言いながら口にすると、トラヤヌス王子は驚いたように目をしばたたいた。食してみると、きのこの他にも入っていたベーコンや玉ねぎの塩味や甘みとともに、きのこの独特な風味が、格別な味を醸し出していた。
「うむ。これは美味!」
 さっきまできのこを軽蔑していたのとは裏腹に、トラヤヌス王子は褒めたたえた。
「ありがとうございます」
 大臣は胸をなでおろしながらも、王子を意外に感じた。この王子。確かにぞんざいな態度だが、良いものは良いと言う性質の持ち主のようだ。これならなんとかなるかもしれん。そんなことを考えながら、大臣は次なる料理を運ばせた。
「こちらはきら星のスープでございます」