「あら、ほんとに魔法でできるの?」
 フローラ姫は、びっくりして、カトリーヌをじっと見つめた。
「さっき、教会の廃墟で戦った時、剣を召喚しました。それと同じ方法でできると思います」
「しかし、剣の大きさは小さいが、ピアノはとても大きなものだ。体力をとても消耗すると思うが、ほんとに平気なのか、カトリーヌ」
 タムが目をしばたたきながら、そう訊いてきた。
「それは……。でも、やらないわけにはいかないじゃないですか」
 カトリーヌは真剣な表情で言った。タムはカトリーヌの本気を感じ取ると、こう助言した。
「召喚するピアノは、さっき見たマリア王妃様のピアノにしろ」
「えっ、なぜですか」
 カトリーヌは驚いて、タムに尋ねた。
「確かに距離的には、この城の塔にあるピアノの方が近いが、しかし召喚魔法は、その物体の声を聴くものだ。まだ見たことのないピアノの声をつかむより、先ほど実際に音色を聴いたピアノの方が、声をつかみやすいだろう。それとマリア王妃様の使っていたピアノだ。実の娘達の危機なのだから、きっと守ってくださるだろう」
 タムの意見はもっともなものだった。召喚するなら、確かにあのピアノしかないだろう。守ってください、マリア王妃様。カトリーヌは静かに祈った。
「分かったわ。カトリーヌが、がんばるなら、私もがんばって、ピアノを弾くわ。そうしてあいつをあっと言わせましょう」
 フローラ姫は、そう言ってカトリーヌの肩をぽんと叩いた。カトリーヌは、銀色の杖を強く握りしめると頷いた。
「はい、そうしましょう」
「なら、行くわよ」
 フローラ姫は、小部屋のドアを押し開き、トラヤヌス王子の席へと堂々と向かい始めた。その後ろからは、決戦の舞台に行くような面持ちのカトリーヌとタムがついて行った。
 一方、トラヤヌス王子は、ウルバヌス大臣とエミリーの給仕によって、食事がつつがなく執り行われていた。
「我が国バイチェスカは、魔法に力を注いでいる国であります。それですので、今回のフルコースは魔法料理となっております」
「うむ、なるほど魔法料理か」
「まず最初はアジュールボルボワでございます」
 大臣は召使いより料理を受け取ると、トラヤヌス王子の前へと差し出した。
「まず、ごらん頂きたいのはこの色合いです」