「ほほう、それはご立派ですなあ。しかし私めを待たせた理由はいかがなものかと。侍女の不手際によってあなたは遅れたという話でしたが……」
「違いますっ! それは違います」
 カトリーヌは、トラヤヌス王子とフローラ姫の会話に、思わず言葉を挟んだ。人の命をなんとも思っていないトラヤヌス王子に、彼女は激しい怒りを覚えた。
「そなたは?」
 急にフローラ姫との会話に割り込んできたカトリーヌを、王子は不快そうにちらりと見やった。
 カトリーヌはとっさに本名を名乗ろうとしたが、先程の三人の話し合いを思い出し、慌てて呟いた。
「アマンダ……。アマンダと申します」
 隣にいるフローラ姫も少し顔色を変えたが、動じていない様子を装うと、カトリーヌの言葉の後にこう続けた。
「アマンダは、私の専属の魔法使いです。彼女の意見は私の意見と同様のものです」
「なるほど、魔法使いとは。そこの黒い犬は使い魔といったところか」
 納得したように彼が頷くと、今度は王の側に控えていたパーリヤが目くじらを立てた。
「フローラ姫! その者はいったい何者。そもそもこの国の専属魔法使いは、この私めではないですか」
「それは分かっています。彼女は私専用の魔法使いであって、国専属の魔法使いとは違う者です」
 フローラ姫は、さらっと言うと、パーリヤを睨みつけた。
「いったいいつからそんな者を城に入れたのですか」
 ぎらぎらとした目で、カトリーヌをねめつけると、そのまま食ってかかりそうな勢いだった。下手をすると魔法でもかけてきそうな様子だったので、カトリーヌは思わず首をすくめた。
「まあまあ、パーリヤ、今はそれどころではないぞ。トラヤヌス王子の前であるぞ」
 気遣わしげな目で、王はパーリヤを諫めた。苛立った様子のパーリヤだったが、しかたなく、引き下がった。
「そうでした。これは申し訳ございませんでした」
 パーリヤが頭を下げると、フローラ姫は、ついっと前に出るとトラヤヌス王子に事情を話した。
「実はお待たせしたのは、別の部屋でこっそりと宴の準備をしていたからです。ですので、私の侍女に落ち度があったわけではございません」
「さようか。私も宴は好きだが、こんなに待たせたのだからな、さぞや手の込んだ宴でなければな。はははっ」