「編まれている糸は、うちの国でしか作られていない秘密の糸なの。軽いし、とても丈夫なのよ。だから動きやすいの」
「そうなんですね」
「とりあえず、それに着替えてて。私もドレスに着替えるわ」
 言うだけ言うとフローラ姫は衣裳部屋の奥の方に行ってしまった。カトリーヌは言われた通り、その不思議な糸で作られたワンピースに袖を通してみた。着てみると、サイズも申し分なかったが、あまりの軽さに着ているのを忘れるぐらいだった。カトリーヌは衣裳部屋の中にある姿見に、自分の姿を映してみた。雪のような白さのワンピースに紺色の魔法のローブを羽織ると、一人前の魔法使いのように見えた。あと、必要なのは杖だろうか。そんなことを考えているうちに、フローラ姫が部屋の奥から戻ってきた。
 フローラ姫は、長い髪をおろし、色味を押さえた濃い赤いドレスに身を包み現れた。膨らんだ大きな袖に、たくさんの赤いフリルやリボンを付けたドレスはとても豪華に見えた。その一方で赤いドレスはフローラ姫を、大人っぽく見せた。そのフローラ姫の手には、小振りの細い銀の杖が握られていた。
「赤いドレス素敵ですね」
「ありがとう。それより、この杖を持つのよ」
「これは?」
 カトリーヌはフローラ姫から銀の杖を手渡された。
「誰のものか分からないけれど、代々伝わっている長持ちの中に入っていたものよ。きっと魔法の杖なんだと思うんだけど、ちょっと拝借してきたわ。杖を持っていれば、とりあえずは専属魔法使いっぽいでしょ」
その杖は頭の部分が六角柱になっていて、光り輝くダイヤモンドが埋め込まれていた。
「ありがとうございます」
 カトリーヌは、恐縮した面持ちで、銀の杖を握りしめた。
「それとフードは目深に被ってね」
フローラ姫は紺色のローブのフードを、カトリーヌに被らせると、唸った。
「うん、これなら誰だかわからないわね。それにベテランの魔法使いっぽく見えるわね。合格、合格」
「それでは急いでタムのところに戻りましょう」
「そうね」
 フローラ姫は大きく頷き、二人は急いで元いた部屋へと戻った。
 戻ると、まだ不安そうな顔のエミリーがフローラ姫を待っていた。
「姫様。宴の準備が整いました」
「そう、ありがとう」
「ところで姫様。先程は聞いている暇がなかったのですが、そちらにいらっしゃる方はどちら様でしょうか。あとこの犬は」