二人は部屋にタムを残し、衣裳部屋へと向かった。衣裳部屋は、フローラ姫の部屋から出て、まっすぐ行った突き辺りの部屋だった。
「さあ、ここよ。入って」
 言われるままに部屋の中へと入ったカトリーヌは目を見開いた。白、赤、ピンク、水色、黄色、緑、紫……。贅を尽くした様々な色合いのドレスが、押し合い圧し合いしながら、ハンガーに吊るされ、並べられていた。こんなに服があったら、いったいどうやって選ぶのだろうか。そんな疑問を持ちながらも、カトリーヌは側にあった真っ青なドレスに目を通した。サテン生地のそのドレスは、つやつやと光り輝き、とても滑らかな手触りだった。まるで水のようだわ。驚きとともに、そのドレスをまじまじと見つめていると
「はい、これ!」
と、フローラ姫は紺色のフード付きのローブをカトリーヌに手渡した。それは厚手の生地で織られ、フードの縁には金色の糸で文様が編み込まれていた。ドレスとは違って、ローブはずっしりと重く厳かな雰囲気を醸し出していた。羽織ってみると、まるでカトリーヌが元々の持ち主であったかのように、ちょうどいい大きさだった。
「サイズ的にぴったりです」
 びっくりした様子で言うカトリーヌに、フローラ姫は声を潜めてこう告げた。
「聞いた話によると、そのローブには魔法がかかっているそうよ。なんでも着た人に合わせて変幻自在に変わるそうよ」
「ほんとですか?」
「カトリーヌが着て、大きさが合うっていうのは、そういうことかもしれないわね」
 フローラ姫は、考え深げにそう答えた。
「まさに専属魔法使いにはぴったしのローブだと思うわ」
「そうですか。そんな貴重なローブを着させてもらって、ありがとうございます」
 フローラ姫も、うんうん頷きながら、
「ローブはそれでいいとして、中に着るワンピースは、これでいいかしら」
「ワンピースも着替えるのですか?」
 腑に落ちなそうなカトリーヌに、フローラ姫は言った。
「カトリーヌがいつも着ているワンピースじゃあ、パーリヤに出くわした時、すぐばれちゃうでしょ」
「それはそうですね」
 合点がいったように、カトリーヌは頷いた。
「はい、じゃあこれね」
 手渡されたのは、真っ白なふんわりとしたワンピースだった。触ってみると、雲で編んだかのように軽かった。
「軽いでしょ」
「はい」
 目を丸くしているカトリーヌにフローラ姫は笑って言った。