カトリーヌの言葉に、フローラ姫は一瞬ためらった。
「分からないわ、私にも。でも……」
「でも?」
「ここで弱音を吐いているわけにはいかないわ。そもそも、私が城を飛び出さなければ、こんなことにはならなかったわけだし、その責任はとらなくちゃ。それに一応一国の姫だしね」
 ふっと笑うとフローラ姫は、肩をすくめ、カトリーヌを見つめた。その顔にはいつもの自信満々の様子は見られず、不安そうな表情が見え隠れしていた。カトリーヌは思った。もし自分が城で姫として育っていたら、この難しい立場にいたのは、自分であったかもしれないのだ。それを考えると他人事ではなく、そもそも本当の姉が今現在困っているのだ。何か力になることはできないのだろうか。こんな私でも……。
 カトリーヌは意を決すると、フローラ姫に伝えた。
「私にできることありませんか。何か手伝えることがあったら言ってください」
 フローラ姫は静かに微笑んだ。
「ありがとう」
 二人を側から見つめていたタムも言った。
「少しぐらいの魔法なら俺も使える。何か魔法が必要な時は言ってくれ」
「そうね。二人には私の側にいてもらった方がいいかもしれないわね」
 カトリーヌとタムは異存はないと、深く頷いた。それからフローラ姫はカトリーヌの顔をまじまじと見つめた。
「私達、やっぱり顔がそっくりね。とりあえず、今はカトリーヌの素性がわからない方がいいいわね」
「この城にはフード付きのローブはないのか」
「あるわよ」
「フードを目深に被れば、顔はそんなに見えずに済むだろう」
「そうね、それがいいわね」
 フローラ姫は頷くと、二人に言った。
「とりえあえず、私もこの格好では宴には出られないから、衣裳部屋へ行って着替えてくるわ」
「それでは、タムと私はここで待っています」
「何言ってるのよ。カトリーヌも一緒に着替えるのよ」
 フローラ姫は笑って答えた。
「私もですか?」
「そうよ。今思いついたわ。カトリーヌには、私の専属のお抱え魔法使い役をやってもらうわ」
「私が専属魔法使いですか」
 戸惑った様子のカトリーヌの肩をぽんと叩くと、フローラ姫は言った。
「じゃあ、私達は衣裳部屋に行ってくるから、タムはここで待っててね」
「うむ、分かった」