『私がいなくなって、ものすごく怒ってるんだわ、パーリヤさん。だからって、人を処刑させようとするなんて』
「許せない!」
 カトリーヌが思った言葉をフローラ姫が怒って言った。
 その時、フローラ姫の部屋の外から声がした。
「エミリー、そこにいるのだろ。残念ながら王がおまえの処刑を望んでいるんだ。出てきてくれるか」
「その声はウルバヌス大臣ね」
 むっとした口調で、フローラ姫が言い放つと、外の声の主は慌ててドアを開け入ってきた。
「もしやその声は!」
 入ってきたのはこの国に仕えるウルバヌス大臣だった。
「姫、いったい今までどこにおられたのだ」
「そんなことより、エミリーを処刑するなんて、私が許さない!」
「しかし、姫。実はトラヤヌス王子がお越しになられて、三十分待たせてしまったのです。それにより、トラヤヌス王子がご立腹なのです」
 それを聞いて青ざめたのは、エミリーだった。
「まあ!! もうお越しになられてしまったのですね」
「そう……」
 さすがにフローラ姫も気まずそうに唸った。思わぬ事態に、カトリーヌとタムも困った表情を浮かべた。
「さあ、姫。とにかくエミリーを連れて行きますぞ」
「それはまずいわ。いいわ、私がうまく言いくるめるわ。」
「しかし姫。相手はドナパール国の王子ですぞ」
「とにかく早急に宴の準備をして!」
「宴ですと?!」
「いいから! 私の言う通りにして」
「ですが」
「時間がないの早くして!」
「分かりました。しかしどうなっても知りませぬぞ」
 ウルバヌス大臣は納得いかなそうな表情を浮かべながらも、急いでフローラ姫の部屋を出て行った。
「ほんとにいいのですか、姫様。私が処刑されて国が守れるのでしたら、それはそれでしかたないと思うのですが……」
 不安な面持ちのエミリーに、フローラ姫はこう告げた。
「何を言ってるの。この国で血を出すことは許さないわ」
「でも姫様」
「そんなことより、エミリーもウルバヌス大臣のところへ行って、宴の準備を手伝ってきて。私がなんとかするから。宴の準備が整ったら知らせにきて」
「分かりました。姫様がそう言うなら」
 そう言うと、エミリーもまたフローラ姫の部屋から出て行った。三人だけが部屋の中に残ると、今まで黙って事の仔細を見守っていたカトリーヌが口を開いた。
「フローラ姫、本当に大丈夫なんですか」