タムが白み始めた空を見つめながら、忠告してきた。
「それじゃあ、もっと急ぐわよ」
 三人は更に速度を増して歩いて行った。森を通り抜け、街道に出ると、もう日が昇り始めていた。途中城に荷物を届けに行くという商人と出会い、三人はその馬車に乗せてもらうことができた。ガタガタ馬車に揺られながら、街道を進むにつれ、大きな真っ白な城が見えてきた。初めて見る城の姿に、カトリーヌの心は高ぶった。両脇を守る優美な尖塔は、星を突きそうなほど鋭く、城の中央の三角の屋根は空色をしており、白い壁をいっそう際立だせた。それだけではなく、近くになればなるほど、壁のあちこちに見事な彫刻が施されているのが分かった。なんと美しい建物だろうか。カトリーヌは、うっとりせずにはいられなかった。一方フローラ姫の顔には、憂鬱そうな表情が浮かんでいた。彼女にとって城は堅固な牢獄にしか見えなかった。ここでは誰もが彼女の一挙一動を見つめていた。隙を与えるわけにはいかなかった。彼女は背筋を伸ばし、毅然とした態度で馬車に揺られていた。タムはそんな二人の様子を交互に見ながら、深いため息をついた。
 三人は城の手前で下ろしてもらうと、商人に礼を言い、また歩き始めた。フローラ姫が先頭を歩き、二人を誘導した。彼女は城の門の中には入らず、城の裏手へと回った。
「どこへ行くんですか」
怪訝に思ったカトリーヌがフローラ姫に聞くと彼女は、にっと笑って答えた。
「私の部屋まで行く隠し通路があるの。まあ、見てなさい」
そう言うと、彼女は木々の生い茂るちょっとした林の中へと入っていった。カトリーヌとタムは顔を見合わせながらも、フローラ姫の跡について行った。その先には、蓋で塞がれた小さな井戸があった。フローラ姫は誰もいないことを確認すると二人に言った。
「この井戸の底に隠し通路があるの。ちょっと狭いけど我慢してね」
フローラ姫が蓋をはずすと、中には縄梯子がかかっていた。
「気をつけてね。ゆっくり降りるといいわ」
カトリーヌは慎重に縄梯子を使って下りて行った。
「タムはどう下ろそうかしら」
 フローラ姫はちょっと困った表情を浮かべた。
「心配するな。これくらいの距離なら魔法で瞬間移動できる」
「えっ、瞬間移動?!」