「カトリーヌばかりに気をとられてんじゃないわよっ!」
 そこにいたのはさっきまで紐で縛られていたフローラ姫だった。フローラ姫が男の胸に足蹴りしたのだ。
「それにこの剣は、我が家の家宝なの。あんたみたいなこそ泥連中に渡すわけにはいかないわ」
 フローラ姫は床に転がった剣を、大切そうに拾った。
「ふっ、よそ見してたのは、確かに不覚だったなあ。だがしかし、おまえが剣を手にしたところで、結果は見えてるがな」
そう言いながら、男は剣を再び構えた。そしてフローラ姫も剣を構えた。
 二人は睨み合いながら、相手との間合いをとりつつ、そろりそろりと足を動かしていった。辺りは先程とは違った緊張感がとり巻き、息をするのもはばかられた。カトリーヌは、フローラ姫の戦いの邪魔にならないように、そっと後ろへと下がった。下がるとすぐ側にタムがいた。タムもまた険しい表情を浮かべながら、二人の戦いの行く末を見守ろうとしていた。
 フローラ姫は、突如声をあげた。
「やっ!」
 金の剣を片手で軽々と持ち上げ、鋭い剣の切っ先を相手の男の胸元に斬り込んだ。すぐさま男は反応し、フローラ姫の剣をはねのけた。はねのけられたフローラ姫は瞬時にもう一度剣を叩き込んだ。すると男の服の一部がすーっと裂け、慌てて相手の男は飛び退いた。
「次は腕を斬るわよ! 降参するなら今のうちよ」
「なっ、何言ってやがる。勝負はこれからだ」
 男は言うが早いが、大振りの剣を振り上げ、真っ向から襲いかかってきた。
「ガンッ!」