「なるほど、それはいい案だ。魔法で剣を作るのはかなりの魔力が必要だからな。近くにある剣を召喚するということだな」
 タムが感心したように言うと、カトリーヌは答えた。
「そうです。ともかく剣を取り出しますね」
 彼女はその場で目をつぶると、意識を集中させて剣のことを念じた。すると頭にきらびやかな剣のイメージがふっと浮かんだ。そこから彼女は両手を丸い円をもつように宙を囲み、呪文を唱え始めた。一言一言間違えのないように呪文を何度も呟き、さっと目を開けた瞬間、彼女の両の手には一振りの剣があった。その剣の鞘と柄は金でできていて、柄の中央には大きなダイヤモンドがはめ込まれていた。
「ずいぶんと豪奢な剣だな。いったいどこの剣だ、それは」
「分かりません。ですが、そんなこと言っている場合じゃないです。行きましょう」
カトリーヌもそれは思ったが、今はそれどころではない。一刻も早くフローラ姫を助けに行かなくては。
 二人は丘の岩陰から離れると、相手に気づかれないよう背をかがめながら、教会の廃墟へと近づいて行った。幸いにして、さっきまで空に浮かんでいた月は厚い雲に覆われ、二人の動きも相手の目に入りにくくなっていた。カトリーヌとタムは息を殺しながら、石で造られている教会の両開きの扉までたどり着いた。扉は壊れ、既に開いている。そのかげから、こっそり中をのぞくと、がらんとした礼拝堂が暗闇の中に沈んでいた。確かにそこには誰もいないようだった。
「フローラ姫と敵は、礼拝堂の左側の廊下を渡った、一番奥の部屋にいる」
 タムが小声でそう言うと、カトリーヌは頷いた。
「分かりました。先頭はタムが行ってくれると助かります」
「本当に剣で戦うのか?」
 タムが心配そうな目でカトリーヌを見つめた。
「もちろんです」
「しかし剣で戦ったことなどないだろ」
「それはそうですが……。でも今は緊急を要するのですから、なんでもやります!」
 気合いの入った声で、カトリーヌがそう告げると、タムも頷いた。
「そうか……。なら、怪我のないようにな。危なくなったら逃げるんだぞ」
「分かりました。」