「なんなら、やめておくか。先程の兵士を見つけてきて、助けてもらった方が賢明か。しかしそれだと、おまえら二人が話し合う機会も、そうそうないことになるがな」
 カトリーヌは、はっとっした。そうだ。ここでもたもたしている暇はないのだ。何しろ今は国家の危機なのだから。そもそもフローラ姫の身に万一があってはいけない。こうしているうちにも、いろんなことが手遅れになるかもしれない。
 そこまで考えて、カトリーヌはようやく腹を決めた。弱気の虫を追い出し、自分の命も投げ出すぐらいの気持ちで夜盗とやり合おう。カトリーヌはタムにこう告げた。
「いいえ、私はやります。なんとしてでも彼女を助け出します」
「そうか。なら、俺も助力するぞ」
 タムはカトリーヌの様子を見て、安心した。何をするにもやる気がなくてはとタムは常々考えていた。以前は人の言うなりになりがちなカトリーヌだったが、ここにきて自分の意志を持つようになったなとタムは感じていた。
「さて、どうやって助け出す、カトリーヌ」
カトリーヌは腕を組み、熟考した。しかしいい案は何も出てこなかった。
「もし、私が攻撃魔法ができる魔法使いだったら、もちろん魔法で敵をやっつけます。でも残念ながら、攻撃魔法の呪文は、何一つ覚えていません」
そう言ってカトリーヌは、頭を振って、困惑した表情を浮かべた。カトリーヌの使える魔法は物探しや、傷を癒す魔法といった生活に寄り添った魔法だった。なぜ、攻撃魔法を覚えなかったかというと、自分の身の回りに悪者はいないと思っていたからだ。冒険の本で起きるような悪者退治などは、自分には無縁なこと。どうせだったら普段役に立つことを覚えようと思っていたのだ。しかしこんなことなら、ひとつでもいいから攻撃魔法を覚えておくべきだったと後悔していた。
「魔法が駄目なら、どうする」
 タムに訊かれ、カトリーヌは自信のない口調で言った。
「武器で戦います」
「武器? 武器もいろいろだが、その武器はどうする」
「そうですね。戦うとしたら、弓か剣のどちらかだと思うのですが、どう考えても接近戦になりそうなので、剣にしようかと思います」
「剣か。ところで、その剣はどうする。これから武器屋にでも行ってくるのか」
「いいえ、魔法で剣を取り出します」
「魔法で剣を作り出すのか」
「そうではなくて、この近くにある剣を一時だけ借りようと思います」