「ともかく、大人達の頭、そう、悪者の頭を冷やしてやる時間が必要なのよ。それには私をかくまって時間稼ぎをしてくれないと困るのよ。ね、お願いだから、かくまって!」
 カトリーヌは、エリザベスがあまりにも頼み込んでくるので、しぶしぶ頷くほかなかった。
「でもかくまうといっても、どこにかくまったら……」
「あなたが住んでいる部屋がいいわ。あなたの目のつくところなら、一番安全そうだもん。それに私達、顔がそっくりじゃない。パーリヤが私を見たって、あなただと勘違いするわよ!」
 エリザベスは、くくっと面白そうに笑った。
「とにかくあなたの部屋に案内してくれない? 話はそれからね」
 そこで二人は急いで森の中を通り抜け、カトリーヌの住む小屋へと戻った。
 小屋へ戻ると、カトリーヌはエリザベスを一人残し、慌てて魔女の塔へと駆け込んだ。
 塔の中に入ると、魔女が魔法薬を調合していた。集めた朝露の小瓶を持って行くと、台所には、怪しげな煙が立ち込めていた。とんがり帽子に黒のローブに身を包んだ、痩せた長身の魔女が、大鍋に蛇やら、蛙やらを煮込み、ぐつぐつと煮立てていた。
「遅いじゃないか、カトリーヌ! 何をもたもたしていたんだい! これを作り終わったらすぐに城へ出向かないといけないんだからね。分かっているのかい」
「すっ、すみません」
 びくびくしながらも、カトリーヌは、小瓶をパーリヤに手渡した。彼女は小瓶を親指と人差し指に挟むと、中に入っている朝露をじろりと睨みつけた。
「ふんっ。どうやらきちんとした朝露を入れてきたようだね。まあ、いいだろう。かぎ草と綿の実、それから豚のしっぽ草を集めてくるように。それとほれ薬の調合をしておくように。あと台所の掃除もいつも通りしておくんだよ。帰りは夜になるが、それまでに全部やっておくこと」
「わ、分かりました。やっておきます。あと朝と夜の分のパンをもらえますか」
 カトリーヌのお腹がぐうっと鳴るのが台所に響くと、パーリヤは鼻を鳴らした。
「やれやれ、大して働きもしないで、食べ物だけは要求してくるとはね。ほら、持ってきな!」
 パーリヤがそばに立てかけてある杖を一振りすると、カトリーヌの手の中には、固いパンが二個現れた。彼女はそれを大事そうに抱え込むと、かぎ草を入れるための大きなかごにそのパンを入れ、魔女の塔を後にした。