二人は隠れている余裕もなく城の兵士達と鉢合わせしてしまった。カトリーヌは慌てて顔をそむけた。
「おまえは、村の娘か」
「あっ、はい、そうです」
「実は姫様がいなくなって探しているのだ。それらしき人物を見かけなかったか」
「いえ、見かけてません」
「そうか……」
「隊長、この辺りにはいらっしゃらないのではないでしょうか。ここは城からは結構な距離ですし」
「うむ、そうかもしれんが、念には念をいれてだな」
「しかしこんなに探しても見つからないのですから」
「まあ、確かにな」
 隊長と呼ばれた人物と、もう一人の兵士が話し合っていたが、姫はいないということで引き上げることが決まったようだった。
「娘よ、悪かったな。そなたも夜盗には気をつけて村へ帰りなさい」
 隊長はそれだけ言うと、兵士達を引き連れ、城への道へと戻って行った。
 彼らの姿が完全に消えた後に、タムは、カトリーヌに話しかけた。
「危なかったな。俺もフローラ姫の臭いばかり意識していたから、その他の臭いに気づかなかった。悪かった」
「あの人達の跡をついて行けばいいのでしょうか」
「大方はそうだが、どうもフローラ姫は道をそれてしまったようだな。彼女の臭いは、彼らの行く方向にはないようだぞ」
タムは鼻をひくつかせながら、そう言った。
「フローラ姫は道に迷ってしまったのでしょうか」
 不安になって、カトリーヌはタムを見つめた。
「うむ、まだ何とも言えないが、ともかく行ってみよう」
 二人は兵士達の行った道よりも、右の道をとり、奥深い森の中をさまよった。気がつくと、三日月が空に昇ってきた。それによって、暗かった森は少しだけ明るさを取り戻し、二人はどんどん先を急いだ。急いで行くうちに、足下の草むらは、ますます深くなり、平坦だった道は、森から離れ、小高い丘へと向かっていた。
「本当にフローラ姫はこっちに歩いて来たんですか? 城の方向とは真逆のようですが」
 心配になって、カトリーヌが訊くと、タムも困ったように頭を振った。
「間違いないのだが、他の臭いも強まってきた……」
「他の臭い?」
「他の誰かの臭いだ。ひょっとしてフローラ姫は、夜盗に捕まったのかもしれんな……」
「夜盗に?! それは大変! 急ぎましょう!」
 タムも頷き、走り出した。カトリーヌもおいていかれないように、懸命に走った。