カトリーヌは礼を言い、タムは図書室に鍵をかけた。その時、カトリーヌはあることを思いついた。この先、何が起きるか分からない。だったら、地下室の貯蔵庫から、一つだけ願いを叶えてくれる魔法の粉を持って行こうと思ったのだ。その話をタムにすると、賛同してくれた。そこで二人は、パーリヤに鉢合わせしないように慎重に地下室へと下りて行った。
「俺が見張っているから、早くしろ」
 カトリーヌは言われるままに急いで魔法の粉を小瓶に入れた。彼女はすぐさま貯蔵庫から出ようとしたが、すぐ隣の小瓶に目が留まった。その小瓶の中には丸薬が入っていた。
『この丸薬も何かに使えるかもしれない……』そう思ったカトリーヌはとっさにその丸薬を小さな袋の中に入れた。
「急げ、カトリーヌ!」
 タムが声をかけてきた。彼女は急いで貯蔵庫を出ると、タムと二人でパーリヤに気づかれないよう、魔女の塔を抜け出した。
 魔女の塔を出ると、二人はフローラ姫を追って、深い森の中へと入っていった。気がつけば、夕闇が迫っていた。烏はカーカー鳴きながら、寝床へと戻り、かわいい小動物達もがさごそ音を立てながら、どこかへと消えていった。遠くの方から狼の遠吠えが聞こえ、カトリーヌは一瞬すくみあがった。
「フローラ姫は夜になる前に城に着いているでしょうか」
彼女は心配そうにタムに話しかけた。
「森の中で迷っていなければ、森を抜け、城へと続く街道を歩いているところだろうよ。しかし街道まで出てしまうと城までもうすぐだ。おまえはフローラ姫が城に着く前に会いたいのだろう」
「それはそうですが……。でも、夜の森は、狼も夜盗も出るという話です。それだったら、もう既に城にたどり着いていた方が安心ですよね」
「それだと、おまえが困るだろう。城に入ってしまったら、そう簡単にはフローラ姫の側には寄れないだろう」
「それはそうですが……」
「まあ、ともかくフローラ姫の跡を追おう」
タムに促され、カトリーヌは歩く速度を早めた。夜の闇は徐々に深まり、暗い森は更に、漆黒の色へと変わっていった。いつもは親しげに見える大きな古木も、夜の闇に照らされ、不気味な怪物の様相を呈していた。カトリーヌ達は草や木々に足をとられつつも、前へ前へと進んでいった。しばらく歩を進めるうちに、どこからともなく声が聞こえてきた。
「姫様! フローラ姫様!」