言うだけ言うと、パーリヤは小屋を出て行ってしまった。テーブルの上には、ピンクのドレスが無造作に置かれていた。しかしカトリーヌは、このドレスを着る気は、さらさらなかった。これからどうしようか。部屋の中をうろうろしながら、カトリーヌは考えた。まずはフローラ姫に、隣国の王子が明日来ることを伝えなればいけないだろう。隣国との関係については、フローラ姫の方が知っているだろうから、それについては、彼女に訊くのが一番だ。今、フローラ姫は城に向かっているはずだ。できれば城に入る前に二人だけで話がしたいとカトリーヌは思った。それにはパーリヤと一緒に城に行くのではなく、一人で行くべきだと彼女は考えた。でも私は城までの道を知らない。タムだったら城までの道を知っているだろう。それにフローラ姫の臭いをたどっていくことができるだろう。そこまで考えると、カトリーヌはピンクのドレスをその場に置いたまま、小屋を出た。それから魔女の塔へ向かい、こっそり青いドアを開けて、中へ入った。幸い台所にはパーリヤの姿はなかった。台所を通り過ぎ、廊下を渡り、上へ上る階段を急いで上ると、さらに廊下を突っ切り、タムのいる図書室の前までやってきた。そうして呪文を唱え、図書室のドアを開けた。
「タム!」
カトリーヌが図書室の中で叫ぶと、タムが本棚の列の間から姿を現した。
「どうした、カトリーヌ。また何か問題が起きたのか」
タムは心配そうに寄ってくると、声をかけた。
「そうなんです、パーリヤさんが、私にフローラ姫の代役になれと言ってきたんです。パーリヤさんは私を城に連れて行くつもりです。私はパーリヤさんと一緒に行くつもりはないです。まずは城へ向かっているフローラ姫を見つけて、事情を話そうと思って……。それからどうしようか、二人で考えようと思うのです」
カトリーヌは不安な思いを募らせながらも、タムに今起きていることをかいつまんで話した。
「そうか……。パーリヤの言うところの国家の危機というのは、あながち嘘ではなさそうだが、だからと言って、パーリヤの言う通りにする必要はないな。むしろ返って危機を招くかもしれん。よし、パーリヤの気づかないうちに、城へ出かけよう。その前にフローラ姫を拾って行かねばな。何、俺の鼻があれば、見つけだせるだろう」
「ありがとう、タム」