「話しかけられたらどうするんです」
「そこは私がなんとかするさ。それより、そのみすぼらしい格好ではどうもならんと思ってな」
 パーリヤは、呪文を唱えながら、杖を一振りした。すると目の前に王侯貴族が着そうな豪華なドレスが現れた。ピンク色のそのドレスは、襟や袖や裾にありあまるほどの白いフリルがついていた。なんでもない状況だったら、その豪奢さに、うっとりするところだが、パーリヤはそれを着るように命令してきた。
「これを着て、城へ行けというのですか」
「その通りだよ、カトリーヌ。とにかく今は国家の危機なんだよ。隣国の王子がわざわざ王女に会いに来て、その王女がいないと知れたら、隣国はどう思うと思う」
「どうって、どう思うんですか」
 カトリーヌも、それは考えていなかったので、緊張した面持ちでパーリヤに尋ねた。
「そりゃあ、怒るだろう。うちの国をないがしろにしてるって、下手をしたら戦争をしかけてくるかもしれない」
「戦争?! それは本当ですか」
「隣国のドナパール国とはあまりいい関係が築けてないんだよ。お互い領土を求めている。フローラ姫と結婚することになれば、戦争は回避されるだろうさ」
「そんな話になってるなんて、知りませんでした……」
 カトリーヌは、フローラ姫のことだけを考えていた。見ず知らずの王子と勝手に結婚させられる、それはひどいことと思ってはいたが、隣国との関係については、今まで聞いたことがなかったのだ。しかしだからと言って、パーリヤの言うことが全て正しいとも思えなかった。これはフローラ姫と相談しないといけない、カトリーヌはそう思った。
「そんな大事なことなら、尚のこと、本人のフローラ姫でないとまずいんじゃないでしょうか」
「そりゃあ、フローラ姫がすぐにでも見つかるなら、そうしたいところさ。しかしどこを探しても見つからないんじゃ、代役を立てるしかないだろう。さあ、もうつべこべ言わずこのドレスを着るんだ。私は魔女の塔にいったん戻ってまたここへ来るから、それまでに城へ行く支度をしておくように」