カトリーヌは縫い物は得意だったので、彼女は破れたワンピースを脱ぐと、棚から針と糸を取り出し、いそいそと縫い始めた。集中して縫っている時、彼女は何もかも忘れていた。フローラ姫のことも、マリア王妃のことも、王のことも、そしてパーリヤのことも。きれいに仕上がると、彼女はそれだけで満足だった。それからお茶を飲み、休憩していると、小屋のドアを叩く音がした。誰が来たのかと思えば、それは城から戻ってきたパーリヤだった。カトリーヌは急いでドアを開けた。
「ぼやっとしてないで、早く開けるんだよ。全く!」
「すっ、すみません」
 結局いつものように、パーリヤにどやされると、カトリーヌは小さくなって謝った。
「まあ、いい。ところで城は今大騒ぎなんだよ。フローラ姫がどこを探しても見あたらないんだよ」
息を整えると、カトリーヌは平静を装って、パーリヤに言った。
「散歩にでも行かれたのではないですか」
「一日中散歩に行くわけないだろ。しかも侍女も伴わずに。おまけに今はこの国の一番大事な時期なんだよ」
 パーリヤが眉間にしわを寄せながらそう言うと、カトリーヌはどういうことか真顔で訊き返した。
「隣国の王子様が、明日わざわざフローラ姫に会いに来られるんだよ」
「明日?!」
 さすがにぎょっとして、カトリーヌは叫んだ。フローラ姫も日にちまでは言ってなかったので、カトリーヌは一瞬にして青ざめた。
「急に来られることになったんだよ。しかしそんな時にフローラ姫が行方不明ではね。そこで私はあることに気づいたんだよ。いい手があることにね」
「いい手とはなんですか」
「何、簡単なことさあ。おまえはフローラ姫にとてもよく似ているんだ。ほれ、顔をよく見せてごらん。うむ、ここまで似てるなら、問題」
「何を言ってるんですか……」
 嫌な予感がして、カトリーヌはぶるっと体を震わせた。
「おまえがフローラ姫を演じるんだ」
「そっ、そんなこと絶対無理です!」
 カトリーヌは、思い切り拒絶した。この人は何を言ってるんだろうと思う反面、今までの経緯を考えるとこんなことぐらい大したことないと思っているに違いなかった。それでもカトリーヌは反論した。
「たとえ見た目が似ていたとしても、お姫様の作法や教養を一昼夜で身につけられるものじゃないです。無理です」
「そんな心配することはない。王子の隣の席で、黙って座っているだけでいいんだ」