そう言ってタムは図書室の中へと戻って行った。
そこから二人は台所へ戻り、青いドアから外へ出た。
「いやや、カトリーヌ。おまえまだ分身の術なんか使っているのか」
側の木の上から、ガリヤが二人を見下ろしていた。
「えっ、えっとー、そう、そうなの。ところで外は変わったことなかった、ガリヤ」
 カトリーヌが慌てて訊くと
「おまえが、外のこと気にするなんて珍しいなあ」
と、ガリヤは笑って答えた。
「たっ、たまには気になります」
「そういえば、大事件が起きたんだぜ」
「大事件?」
「城のお姫様、フローラ姫が行方不明なんだそうだ。兵を出して探してるみたいだぞ」
 それを訊いたカトリーヌの顔色が青ざめた。フローラ姫も、ぎょっとした様子で肩をすぼめた。
「まっ、俺には今のとこ関係ない話だがな」
「へえ、そうなんですね。私は小屋にいるので、何かあったら言ってください」
「おうっ、分かったぜ、お疲れな」
 そう言って、またガリヤはどこかへ行ってしまった。
「まっ、まずいわね。兵まで出すことないのに……」
 フローラ姫も気まずそうに呟いた。
「どうします?」
 心配そうにカトリーヌは訊いた。
「私が急いで城に戻るわ」
「パーリヤさんに、見つからないよう気をつけてくださいね」
「カトリーヌは、いつも通りにしててね。絶対迎えにくるから」
 フローラ姫はそう言い残すと、魔女の塔をあとにして、城へと戻って行った。
 残されたカトリーヌは自分の小屋へと急いで戻った。それから暖炉の火をおこし、湯を沸かした。急にいろんなことが起きて、カトリーヌの心はざわめいていた。自分がフローラ姫と同じ王女だなんて、どうして信じられようか……。普通だったら信じないだろう。でもと、カトリーヌは棚に仕舞い込んであった手鏡を引っ張り出した。それは森の中で拾ったものだった。