「お母様、もう逝ってしまわれるのでしょうか」
 フローラ姫も、寂しげな様子で天井から聞こえてくるその声に、声をかけた。
『そうねえ……、もう言い残すことはないから、そろそろ私は逝きます。二人ともパーリヤには気をつけるのですよ。いいですね』
「はい、お母様」
 フローラ姫とカトリーヌは同時に返事をした。
『それでは逝きます。二人とも元気でね』
マリア王妃がそう告げると、シャンデリアの火が急にまばゆく大きく輝いた。そのとたん、火は消え去り、あっというまに暗闇に包まれた。
 気がつくと、三人は赤いドアの前にいた。そうしてドアの中央にはト音記号が、入る前と変わらず彫り込まれていた。
「魔法で戻されたのですね」
 カトリーヌがそう言うと、フローラ姫は大きく頷いた。
「そうねえ。それにしても私達、パーリヤの大きな秘密を知ってしまったわね。どうやらこれは、ただでは済みそうではないわね」
「パーリヤさんは、私達がこの部屋に入ったことに気づくでしょうか……」
「そうねえ、どうかしら」
「いつかは気づくだろうさあ。王妃様を封印して魔力を吸い上げていたのだから、自分の魔力が弱まった時に気づくだろうなあ」
 タムが考え深げに言うと、カトリーヌが不安そうに言った。
「私、どうしたらいいんでしょうか……」
「いきなりいなくなったら怪しまれるわ。私が城に戻って、王に話すわ」
「でも、フローラ姫は城から逃げてきたんですよね? 今戻って平気なんですか?」
「妹を守るためですもの。少しくらいの危険は平気よ」
 フローラ姫は片目をつぶって、にっと笑った。
「うっ?!」
 突如、タムが鼻をひくつかせた。
「まずいぞ、パーリヤの臭いが近づいてくるぞ! 早く小屋に戻った方がよさそうだぞ」
「近づいてくるって、もうすぐそこまで来てるの?!」
さすがにぎょっとしてフローラ姫が叫んだ。
「俺の鼻はよく利くから、城を出たぐらいのところだ」
「なら、まだ大丈夫ね」
「急いで戻りましょう」
 慌てて三人は、今来た廊下を渡り、何十階もある階段を急いで駆け下りて行った。幸い、幻のトラップは上に上る時だけかけられていたので、カトリーヌは行きのように幻に苦しめられることはなかった。図書室のある階まで来ると、タムが二人から離れた。
「一応俺は図書室の番人だからな、図書室にいた方がいいだろう。何かあった時は呼んでくれ」