『あなた達が、赤いドアの封印を解いたからです。それで今聞こえるようなったのです』
「それなら、これからはいつでも王妃様の声が聞こえるのですか」
『いいえ、それはないです』
「なぜですか?」
『私は未練があるが故、幽霊になっているのです。私の未練はあなた達にパーリヤのことを伝えたい、その一念だったのです。今ここで伝えることがきれば、私は天国へ逝けるでしょう』
「お母様、私達に伝えるべきことは他にないのでしょうか」
 全てを悟ったフローラ姫は、落ち着き払った様子で訊いてきた。
『まだあります。パーリヤがカトリーヌをさらった理由です』
「私をさらった理由……」
 言葉に詰まってカトリーヌは無言になった。
『パーリヤは水晶玉で見たのです。双子のうち、魔法の才に恵まれた子によって、自分の立場が危うくなると。それを知ったパーリヤはすぐにカトリーヌを連れ去り、自分の手元に置くことにしたのです』
小さな声でカトリーヌは尋ねた。
「私が殺されなかったのはなぜでしょうか……」
『カトリーヌは自分よりも魔力が強いと判断したのでしょう。自分よりも強い魔力を持った者を殺すには、それなりのハンデを背負うのです。それを嫌ったのでしょう。それにカトリーヌは王の血筋を持つ者。何かの時は駒として使えると思って生かしたのでしょうね』
 それを訊いて、カトリーヌはますます肩を落とした。何とも言えない気持ちが彼女の中では渦巻いていた。怒りと言えば、怒りだし、悲しみといえば悲しみとも言えた。しかしそれは最終的には、許せないという気持ちに変わっていった。
『カトリーヌには、本当に辛い思いをさせてしまったわね。本当に、本当にごめんなさい、カトリーヌ』
 マリア王妃は、悲しげに呟いた。
『それが本当に心残りでしかたなかったのです』
「お母様。これからは、私がカトリーヌの側にいます」
『そうしてくれると本当に助かるわ、フローラ』
 声が寂しげに聞こえたが、どこかほっとした様子のマリア王妃の声に二人は目をしばたたいた。
「これから、姉としてよろしくね、カトリーヌ」
 フローラ姫は、カトリーヌの肩を抱き、そう言った。
「もちろんです。フローラ姫」
 カトリーヌも、大きく頷いて言った。
『よかった……。二人がこうして、再会してくれて』
 マリア王妃は、二人の見えないところで涙でぐんでいるようだった。