ろくでもないことしか言ってこないエリザベスに、カトリーヌは思わず身構えた。
「私をしばらくかくまってくれない?」
「か、かくまうって、そ、そんなことできません」
「私実は追われているの。私が悪いことをしたわけじゃなくて、追っ手が悪者なの。助けてくれないかしら」
「だったらパーリヤさんに言わないと」
「駄目よ! パーリヤにそんな話しちゃ。大人はちっとも信用におけないんだから」
「でもパーリヤさんに話さないわけには……」
「そのあなたの好きなパーリヤは、ひょっとしたら悪者かもしれないのよ! あなたは悪者に私を渡していいと思っているの? そんなことしたらあなたの方こそ悪者よ」
 カトリーヌは正直面食らった。パーリヤのことは好きではなかったが、従わなければならない存在と思っていた。なのに、そのパーリヤを裏切れと言う。裏切り。それこそ悪じゃないだろうか。カトリーヌは困ったように彼女を見つめた。
「あなたは怖いの? パーリヤが」
 言われてカトリーヌは、そうかもしれないと思った。パーリヤは間違いを起こすと、烈火のごとく怒ったからだ。怒るだけならよいが、一度ならずも、体を蛙に変えられそうになったことがあった。カトリーヌは、おずおずと頷いた。
「駄目よ、恐れちゃ。悪者はいつか滅びるものよ。悪者がいたら戦わなくちゃ。そして正義を勝ち取るのよ!」
 その時、カトリーヌの心に火花のようなものがぱちっと閃いた。そうだ。今まで読んだ悪を懲らしめる物語は、皆一様に主人公が悪と戦い、最後には正義を勝ち取る話ばかりだ。そしてそこには平和が訪れる。もしそれが、真実の話だとするならば、私は戦わなければいけない。そのエリザベスの言う悪者と。
「カトリーヌ、あなたは大人の言いなりになろうとしているわ。大人の言うことは全て正しいと思っているでしょ。でも、そんなことないのよ、カトリーヌ。大人だって、ただの人なの。間違いだって起こすわ。間違っていたら正さないといけないのよ。それって大事なことだと思わない」
 エリザベスの意見は、もっともなことに聞こえた。今までの自分の常識を覆されているにも関わらず、なぜか嫌な気分はしなかった。むしろ清々しい気分だった。だからといって、大手を振ってエリザベスの行動に協力するのも、なんだか怖い気がした。