「廊下の突き当たりの一番奥の部屋だ。ほら、あの赤いドアだ」
 タムは顔をそちらに向けると、ずっと先の廊下の端に赤いドアがあるのが見えた。
「あの部屋が唯一どんな呪文でも鍵が開かない部屋だ」
 いったい何があるのだろう。カトリーヌとフローラ姫は、好奇心とともに、少しの不安が心の中に渦巻いていた。
「とりあえず、休みましょう。お行儀悪いけど、この廊下にっちょっと座り込むといいわ」
 フローラ姫は、すぐにでも行きたそうだったが、隣にいるカトリーヌの顔色が冴えないので、思いとどまった。カトリーヌは言われるままに座り込むと、息を整えた。目を閉じて、静かに息を吸って、吐いた。そうすると、動揺をたくさん与えられた気持ちが、少しずつだが落ち着いていくような気がした。
「ふうーっ」
と、息を深く吐き、目を開けると、気遣わしげに見つめるフローラ姫とタムの目と合った。カトリーヌは二人にこんなに心配してもらったのが、正直嬉しかった。その一方で、二人の冒険の足を引っ張るような真似をしてはいけないと思い、早めに体力が回復するように、自分に魔法をかけることにした。
「私、ちょっと魔法を自分にかけますね」
「魔法をかけるってどういうこと?」
 とたんにそんなことを言い出したカトリーヌに、フローラ姫はびっくりした表情を浮かべた。
「体力の回復があまりよくないので、体を癒す魔法をかけることにします」
「でもさっき、心の傷につける薬はないと言ってたじゃない」
「心はそうですが、体力の方は魔法でなんとかなると思います」
「そう、ならかけた方がいいわね。何か手伝えることある?」
「それだったら、魔法をかけている間、私に話しかけないでください。精神統一するので」
「分かったわ」