「それはずいぶん厄介ね」
「だから気をつけろ、さあ行くぞ」
 カトリーヌはぶるっと身震いして、上の階に上る階段を見つめた。しかし階段はごく普通の石で造られたありきたりの階段のようにしか見えなかった。
 先頭をタムが、真ん中をフローラ姫が、最後尾はカトリーヌの順で上ることとなった。タムとフローラ姫が順々に上って行く後について、カトリーヌも数段階段を上がった。すると急に辺りは霧に包まれ、何も見えなくなった。二人の姿が見えなくなり、カトリーヌは不安になって叫んだ。
「タム、フローラ姫!」
カトリーヌの声が辺りに響き渡るのと同時に霧が晴れると、周りはいつのまにか森へと変わっていた。闇に包まれた森の中、ぽつんとカトリーヌだけがそこにいた。
「タム、フローラ姫、どこにいるの?」
足下には深い草が群生していたが、そこから一つ、二つと白い光が漂い出した。よく見るとその光の中に背中に羽のついた妖精が浮かんでいた。妖精は、けたたましく叫び出した。
「人間よ。ここは人の来る場所ではない。ただちに立ち去れ」
「何しに来た!」
「帰れ、帰れ! 早く帰れ」
気がつくと、白い光は数えきれないほどの数に膨れ上がっていた。その中の妖精達が、カトリーヌの髪を引っ張ったり腕に引っ掻き傷をつけたり、攻撃し出した。
「いたたっ。止めて、止めて!」
 慌ててカトリーヌは、その場から逃げようとしたが、カトリーヌの足は足下の深い草に絡めとられ、一歩も動くことができなかった。妖精達の攻撃はエスカレートして行き、引っかき傷だけではもの足りないのか、今度は鋭い針でカトリーヌの足を刺し始めた。足から血が吹き出し、カトリーヌは痛さのあまり悲鳴をあげた。
「カトリーヌ、カトリーヌ!」
 急に声をかけられ、カトリーヌは、はっとした。気がつくと、目の前には心配そうな顔をしたタムとフローラ姫がいた。そして足下には、先程上っていた階段があるだけだった。
「気づいたようね」
 フローラ姫はカトリーヌの手を取り、無事を確認した。
「妖精は?」
 カトリーヌはもごもごと口を開いた。
「妖精などここにはおらんよ」
 タムはカトリーヌを安心させようとした。
「でも今妖精がいて、私の足を針で刺しました」
「ずいぶんとひどい幻を見ていたようね……」
 フローラ姫は驚いた様子で、呟いた。
「今のは幻? でもその割には、腕や足に痛みが走りました」